【マンガ】辞めたきゃ辞めろ!社長がバラまいた「1243万円の札束」に従業員が口あんぐり…その後の〈約束〉がナナメ上だった『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第16回では、起業家が自身の報酬や自社の財務状況を開示する意味について解説する。

「売れば売るだけ赤字、そんな商売してなんの得があんの」

 大手商社・一ツ橋物産の井川泰子による法外な要求を受け入れ、取引契約を結ぶことになった主人公・花岡拳たち。その取引の内容とは、人気格闘技イベント「豪腕」のグッズ販売に参加できる一方、グッズを売れば売るだけ赤字になるというやっかいなものだった。

 単体では赤字になるグッズ販売を足がかりにして、さらなる事業を生み出そうとする花岡。しかし理不尽な取引内容を知った社員らは、取引の反対を呼びかける者、自分たちの給料を守ろうとする者など、それぞれの思惑で感情をあらわにする。

 技術責任者のヤエコ(片岩八重子)も「売れば売るだけ赤字だっていうじゃない…そんな商売してなんの得があんの」と困惑する。

 そんな不穏な社内に現れた花岡は、経理担当の菅原雅久にかばんを持ってこさせ、中に入っていたものを床にバラまく――それは、札束と硬貨あわせて1243万4067円の現金だった。そして社員に向かってこう語るのだ。

「今、会社にある引き出せるすべての現金だ…会社の行先きが不安だ…。経営方針が疑問だ、これ以上ついていけない…そう思うやつはここから自分の給料3カ月分を取って、今…すぐ会社を辞めていい」

あのジョブズも「年俸1ドル」で自社の再起を決意した

漫画マネーの拳 2巻P165『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 このあと花岡は、社員に対して自身を信じるよう頼むが、それでも戸惑う社員に対し、床に散らばった札束をつかんで「これぐらいのはした金で満足か!」「金はな…欲しいと思うやつにしか集まらねえんだ」と迫る。鬼気迫る花岡の言葉で、社員は再び一丸となる。

 実社会でも、ここまでいかずとも、スタートアップや新興企業において、起業家が自身の報酬をあえて低く設定し、社内に開示することで、自身の覚悟を社内外に示すケースは少なくない。

 アップルから一度追放され、CEOとして復帰したスティーブ・ジョブズが年俸1ドルに設定していたという逸話がある。

 実際には株式なども取得していたため、巨額の資産を築いたジョブズだったが、「年俸1ドル」というメッセージは、当時苦境を迎えていたアップルを復活させるという意思を示すエピソードとなっている。

 とはいえ、創業間もないスタートアップのトップが無報酬や低報酬にするということは、美談どころか生活苦を招く。むしろ起業家が必要以上に低報酬化すること自体、スタートアップの飛躍を阻害するのではないかという議論もある。

 最近ではスタートアップのセカンダリマーケット(未上場株式の売買の場)が形成されつつある。その結果、起業家がイグジット(投資の回収)までに一部の持ち株を売却し、生活基盤を安定させることで、よりリスクを取った大きなチャレンジができるというわけだ。

 花岡のゲキで一丸となった社員たち。しかし井川の陰謀により、次回、さらなる窮地に陥ることになる。

漫画マネーの拳 2巻P166『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 2巻P167『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク