戦車隊の前に丸腰で立ちふさがる1人の男。1989年6月4日の天安門事件で撮影されたと言われる戦車男の映像は、実は不自然な点だらけだ。中国共産党の情報工作と報道の舞台裏を描きながら、誰も知らなかった戦車男の真相に迫る。※本稿は、加藤青延『虚構の六四天安門事件 中国共産党の不都合な真実に迫る』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。
中国共産党の軍隊に勇敢にも
素手で立ち向かう民主化運動家
民主化運動を軍が武力鎮圧した天安門事件。その「名場面」としてこれまで世界に広く伝えられてきたのが、戦車の前に立ちふさがる「勇敢な男(戦車男)」の写真や映像だ。
分厚い鋼鉄に包まれ大砲を搭載する威圧的な戦車に対して、たった1人丸腰で立ち向かうその勇ましい青年の姿は、「中国民主化運動のヒーロー」と受けとめられ、今なお、当時の画像や映像がメディアにしばしば登場する。
そのためか、今では多くの人が、あの写真こそ天安門事件そのものなのだと信じ込むようになった。だがその「勇敢な男の名場面」が天安門事件を象徴する一幕として使われるたびに、当時、武力鎮圧に関わった当事者たちは、「何もわかっていない」とほくそえんでいるかもしれないのだ。
これまでに世界で数多く伝えられてきた「名場面の伝説」は、次のように要約される。
