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1984年の天安門事件で戦車隊の行手をふさいだ「戦車男」は世界的に有名だが、実はその正体は謎のままだ。ところが、当時現場にいた筆者の調べで意外な事実が浮上してきた。※本稿は、加藤青延『虚構の六四天安門事件 中国共産党の不都合な真実に迫る』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

戦車男は逮捕されていない?
その理由が意味深すぎる

 戦車男の正体をにおわせるかのような発言が、中国の最高指導者の口からも飛び出したことがある。

 2000年8月15日、中国共産党総書記の江沢民が北戴河(編集部注/北京近くの避暑地。毎夏に中国共産党の長老たちを交えて非公式会議が行われる)で、米国CBSテレビの「60ミニッツ」という番組のキャスターだったマイク・ウォレスのインタビューに応じ、その中で戦車男について一言だけ次のように答えていた。

「彼は逮捕されていません。ただ、今彼がどこにいるのかもわかりません」

 当時、中国共産党の頂点に立っていた江沢民にとって、「戦車男」の存在までいちいち把握していられるはずがないことは後半の「今彼がどこにいるのかわからない」という返答で十分理解できた。しかしそれならどうして、「逮捕されていない」と断言できたのだろうか。

 もし「戦車男」が民主化運動の闘士だったとするなら、戦車の走行を妨害した事実だけでも、十分逮捕に値する罪に問われていても不思議ではない。

 仮に戦車の走行妨害だけでは逮捕されないとしても、かくも大胆な行動をとる人物であるなら、その前にも多くの「余罪」があるかもしれないし、今後、別の「過激な行動」をとりかねない危うさもある。その後も厳重な監視下におかれ、何か不審な行動をとればいつ逮捕されてもおかしくない状態であったと推定される。