「聞ける上司」がやっている3つの習慣

 聞ける上司には共通する習慣があります。

 たとえば――
 ・話の腰を折らない:途中で「それってこういうこと?」と結論を急がない
 ・相手のペースに合わせる:沈黙も大事な時間と捉える
 ・感情の言葉を拾う:「悔しかったんですね」「少し困っていたんですね」など、心情に寄り添う

 こうした聞き方が日常的にあると、部下は「またこの人に話してもいい」と感じるようになります。1on1はその延長線上にあるだけです。逆に、ふだん話を聞いてくれない人と1対1になったからといって、急に本音は出てきません。

 部下にとって1on1とは、「この人は自分の話をちゃんと受け止めてくれるだろうか?」という問いそのものです。その期待に応えられるかどうかは、それまでの上司の「聞く姿勢」の積み重ねで決まります。

 私はあるマネジャーから、「1on1より日常の5分の会話の方が大事だった」と聞いたことがあります。彼は、何かあるたびに「大丈夫?」と声をかけていたそうです。それがあったからこそ、「1on1で本音を話してもらえた」と実感したそうです。

 人は、「話を聞いてもらえた」体験を通じて、相手との距離を縮めます。自分の話を遮られずに最後まで聞いてもらえた。感情に一言添えてもらえた。意見を否定されずに受け止められた――。

 これらはすべて、小さな信頼のかけらです。

 そうした信頼がたまっていくと、部下は「もっと話しても大丈夫」「違う意見を言っても許される」と思えるようになります。

 そして、それが組織全体の“対話の質”を変えていきます

雑談が変わる、報連相が変わる

「聞ける上司」がいるチームでは、雑談の内容が変わります

 表面的な話題だけでなく、「実は今、ちょっと悩んでいて…」といった本音が自然と出るようになる。それは、「場の温度」が変わっている証拠です。

 さらに、報連相のタイミングも変わります

 部下は、「うまくいっていないことを先に言っても怒られない」と思えるようになる。これこそ、聞けるマネジメントが生む「未然防止」の力です。

 面白いことに、「聞けるようになった上司」は、自分のマネジメントが楽になったと口を揃えて言います。

「昔は全部説明していたけど、今は部下が自分で考えて動いてくれる」
「言わなくても、部下の方から相談してくるようになった」
「何より、部下との関係性が穏やかになった」

 これは、1on1の効果でもあり、「関係性を土台にしたマネジメント」の効能でもあります。

 部下との関係に悩んでいる人がいたら、私はこう伝えたいと思います。「話の最初に“なるほど”と返してみてください」と。それだけで、部下の言葉は変わってきます。安心して続きを話せるようになります。

 信頼は、大きなイベントではなく、小さなやりとりの中でしか育ちません

 1on1とは、そうした信頼を日常的に積み重ねていくための回路です。だからまず、聞ける上司であること。そこからすべてが始まるのです。

(本記事は、『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』に関連した書下ろし記事です)

永田正樹(ながた・まさき)
ビジネス・ブレークスルー大学大学院助教/立教大学経営学研究科リーダーシップ開発コース兼任講師/ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問
1962年生まれ。1990年ダイヤモンド社入社。2005年同社人材開発事業部部長。2015年ダイヤモンド・ヒューマンリソース取締役兼任。2021年北海道大学大学院経済学院現代経済経営専攻・博士課程修了。2022年より現職。博士(経営学)。専門は人的資源管理。日本労務学会賞(研究奨励賞)受賞。主な論文に「部下育成のためのリフレクション支援:成功事例失敗事例の質的分析」(『人材育成研究』第16巻1号)、「リフレクションを中心とした経験学習支援:マネジャーによる部下育成行動の質的分析」(『日本労務学会誌』第21巻6号)ほか。著書に