スマホばかり見ていると、「心の疲労」に気づきにくくなる!?
――なぜ、今の時代はストレスに気づきにくいのでしょう?
川野:今は情報過多の時代で、スマホを見ていれば自分に意識を向けなくても生きていけます。
だから、知らないうちにストレスが溜まり、ある日突然パニック発作が起きたり、体が動かなくなったりしてはじめて自分の状態に気づくんです。
――気を紛らわせる手段が多いぶん、自分自身をごまかしてしまいやすいということですね。
川野:その通りです。たとえば、嫌なことがあったときに、YouTubeを見て気分転換をはかる人は多いと思いますが、それ自体は悪いことではありません。
でも、どんどん中毒的になって、気づいたら「何のために見始めたのか」がわからなくなって、さらに疲れてしまうことも。
だからこそ、一度立ち止まって、自分の状態に目を向けることが大切なんです。
それが、今注目されている「セルフ・アウェアネス」という力にもつながっていきます。
「自分に気づく力」が、人間関係の質を底上げする
――セルフ・アウェアネスとは、具体的にどんな力なんでしょうか?
川野:セルフ・アウェアネスとは、「自分の内面の変化や状態に気づく力」のことです。
自分のことがわかるようになると、自然と他者の心の機微にも気づきやすくなります。それが、「人間関係をよくする土台」にもなるんですね。
――ビジネスでも、セルフ・アウェアネスが重視されてきていますよね。
川野:MBAを取得してビジネスリーダーを目指す人たちの間でも、セルフ・アウェアネスは大変注目されています。
自分を知らずして、他人のことは理解できない。だから、セルフ・アウェアネスは人間関係にも、仕事のパフォーマンスにも直結する大事な力なのです。
――本書には、その力を育てる方法も出てきますね。
川野:そうですね。この本にはさまざまな呼吸法や「ボディ・スキャン」など、自分の状態に気づくための方法が紹介されているので、その中から、自分に合うものがきっと見つかると思います。
気づく力は、日常の中でこそ鍛えられる
――セルフアウェアネスを高めるには、何から始めるといいですか?
川野:自分のちょっとした気分の変化に気づくことが第一歩ですね。
たとえば、すごく疲れているとき、美味しいものを食べて、涙が出てきたとしたら、それは「あなたはとても疲れているんだよ」と体が教えてくれている証拠かもしれません。
そういう変化に敏感になることが、気づきの力を育てることにつながります。
――ちょっとした自分の変化を見逃さないことが大切なんですね。
川野:その通りです。自分の変化に気づけるようになると、自分のことを丁寧に扱えるようになります。
ストレスケアの方法を少しずつ試していくうちに、気づく力は自然と育っていきます。
そうすれば、ストレスを一時的に解消するだけでなく、ストレスそのものに強くなれそうですね。
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、近著には『禅僧の精神科医が教える 頭と心が整理される1分の使い方』(大和書房)などがある。