
小泉進次郎農水相が6月10日、政府備蓄米をさらに20万トン放出すると発表した。コメの民間在庫は以前から過去の米価暴落時を上回る水準に達していたこともあり、農家やコメ流通業者は、米価の激落に身構える。このままでは大規模農業法人が倒産リスクにさらされ、食料安全保障を脅かすことになりかねない。本稿では、コメの在庫の積み上がり状況を分析し、政府による市場介入が、価格の乱高下を増幅するリスクを明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
農水省の市場介入が、米価の乱高下を助長
国民の人気取りが、結果的に消費者利益を損なう恐れ
「今回の政府備蓄米20万トンの追加放出は一線を越えるものだ。参議院選挙を前にした小泉進次郎農相の猪突猛進ぶりに、官僚が反論できなくなっているのではないか。農水省は従来、米価は市場に任せるべきという思想だったはずだが……」
あるコメ流通関係者は、6月10日の備蓄米の追加放出の発表を聞いて、そうぼやいた。同日の発表以前から、江藤拓前農相が決めた31万トンと、小泉農相が就任直後に打ち出した30万トンの備蓄米で、民間在庫は過去の米価暴落時を上回ることが見込まれていた。そこに今回の20万トンの投入である。
同日の記者会見で、小泉農相は、米価暴落のリスクについて問われ、「今、(コメ需給が)“じゃぶじゃぶ”になるんじゃないかとご心配をいただくことはプラスだと思います。私たちとしては、じゃぶじゃぶにしていかなきゃいけないんだと、そうじゃなかったら価格は下がらない」と述べた。
今回放出する備蓄米は2020年産と21年産で、スーパーでの価格は1700~1800円(税別)になる見込みだ。消費者には望ましいかもしれないが、将来に禍根を残しかねない。なぜなら、米価の暴落で、農家が離農するだけでなく、農地を借りて成長してきた農業法人まで倒産のリスクにさらされ、結果的に、食料安全保障が揺らぐことになりかねないからだ。
次ページでは、コメの在庫の積み上がりの状況を分析するとともに、政府による市場介入が、米価の乱高下を増幅するリスクや、それによる農家の経営への影響を明らかにする。