西武新宿線Photo:PIXTA

不動産の流動化を進める西武ホールディングスが、鉄道事業でも攻勢に出ている。2025年に入り運賃改定を申請し、新宿線の沿線価値向上に注力する。こうした中、5月の決算会見ではトップの口から東京メトロ東西線との相互直通運転構想について踏み込んだ発言まで飛び出した。果たして実現の可能性はあるのだろうか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

グループ保有物件の
流動化を進める西武

 資産保有を前提とするビジネスモデルから、不動産を流動化して売却し、その資金を再投資する回転型ビジネスへの転換が鉄道業界でも加速している。その中でも直近で、最も派手な立ち回りをしているのは西武ホールディングスだろう。

 2024年5月に発表した長期戦略で回転型ビジネスへの参入を表明すると、同年12月、第一弾として旧赤坂プリンスホテル跡地を再開発し、2016年に開業した旗艦物件、東京ガーデンテラス紀尾井町の売却に踏み切ったのである。

 売却先はアメリカの資産運用会社であるブラックストーン。帳簿価格が約1396億円のところ、譲渡価格は約4000億円で、譲渡益約2604億円を計上した。この結果、2024年度決算は、営業収益が前年度比88.7%増の9011億円、営業利益は同513.6%増の2927億円、最終利益は同856.6%増の2581億円に達した。

 昨年発表した中期経営計画では、2026年度までにグループ保有物件の流動化を担う「西武ファンド」の組成を予定しており、今後はダイヤゲート池袋、品川プリンスホテル、西麻布レジデンス、エミテラス所沢などの流動化を検討。売却益は高輪、芝公園の再開発など成長分野を中心に投入される。

 不動産、レジャー戦略に注目が集まる中、2025年に入って鉄道事業にも注目すべき動きが続いている。まず3月14日、2026年3月の実施を予定した改定率10.7%、増収率8.4%の運賃改定を申請した。西武は2024年度の定期利用者が2018年度比14.7%減、定期外利用者が同0.5%増で、運賃収入は2%の減少だ。

 同業他社と比較すると減少率は必ずしも大きくないが、今後、ホームドアの整備や踏切安全対策、自然災害対策、防犯対策の強化、無線式列車制御システムの導入など、年間400億円超の設備投資を予定している。