新宿線と東京メトロ東西線の
相互直通運転は実現可能か
後藤氏が今回、メトロの上場にからめて発言したことは、長谷部氏の発言との連続性を感じるもので興味深い。東京メトロ側の本気度はともかく、水面下の検討があったのは事実なのだろう。しかし、この構想に実現性はあるのだろうか。
両路線の接続方法はいくつかの選択肢が考えられる。長谷部氏が言及した新井薬師前と落合の接続案が最も現実的だが、2020年9月28日付東洋経済オンラインのインタビューで西武鉄道の喜多村樹美男社長(当時)が「高田馬場から東京メトロ東西線に乗り入れるとか、いろいろな選択肢がある」と述べており、選択肢はひとつではないようだ。

いずれにせよ、営業路線のトンネル改良工事は相応の工費と工期を要する。東西線は2013年から南砂町駅のホーム増設工事を進めているが、完成時期は当初の2020年度から2028年度以降へ大幅に遅延している。下町特有の軟弱地盤への対応やコロナ禍など特殊要因もあるが、一筋縄ではいかないのが分かるだろう。なお、工費は駅改良だけで300億円以上。直線距離で1.3キロの連絡線を建設するならば、総事業費は1000億円以上になるだろう。

そうなると、連絡線の整備など既存の鉄道施設を有効活用して速達性・利便性向上を図る「都市鉄道等利便増進法」の整備スキームを採用することになるだろう。この場合、国と地方自治体がそれぞれ総事業費の3分の1を補助し、残り3分の1は鉄道・運輸機構が資金調達する。
借入金は営業主体(ここでは西武)が開業後、機構に支払う施設使用料を原資として償還する。施設使用料は営業主体の受益(増収分など)の範囲内にとどまるため、事業者に過度の負担は生じない。相鉄新横浜線、東急新横浜線の整備に用いられたスキームだ。
相互直通運転への熱意は新宿線にとどまらない。6月9日付読売新聞は、西武とJR東日本が池袋線と武蔵野線の直通運転実施に向けた検討を進めていると報じ、両社はこれを認めたのである。両路線の乗換駅である秋津、新秋津は約400メートル離れているが、両駅間には貨物列車(現在は運行終了)や車両の受け渡しに用いる連絡線があり、これを活用して2028年度をめどに臨時列車の直通運転を開始する構想だ。
新宿線と東西線の相互直通運転は具体的な協議へと進むのか。まずはメトロが西武の熱意を受け止めるかに注目したい。