
カナダG7サミット、首脳宣言出せず
アメリカの理念と異質のトランプ革命
カナダ・トロントで6月15~17日に開かれていた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、これまで慣例となっていた国際情勢や経済、気候変動などについての各国首脳の共通認識を示す首脳宣言を出さないまま閉幕する異例の展開になった。
国際貿易を混乱させているトランプ政権の関税政策や気候変動問題、ロシアのウクライナ侵攻問題の停戦和平への取り組みなどで、「アメリカ第一」主義を取るトランプ大統領と他の首脳メンバーとの決裂を避ける狙いがあるとされる。
G7サミットは、民主主義や自由貿易など、共通の価値を掲げる主要国が改めてその認識を共有し、世界に対して民主的制度や法の支配、多様性や包摂性の実現をより進める枠組みであり、とりわけアメリカはG7の中心として存在感を示してきた。
だがトランプ政権が行おうとしている変革は、従来のアメリカの理念や理想とは異質のものだ。
アメリカの政治思想家ハンナ・アーレントは、『革命について』(ちくま学芸文庫)の中で、フランス革命と、アメリカ革命とも呼ばれるアメリカ独立戦争は、全く異なるものだったと述べている。
フランス革命は、身分の違いによって希望を断たれた平民階級が、既存の社会構造を覆そうとして起こした革命だった。そして、「社会的苦悩(misery)」の解消を優先した結果、政治が暴力へと堕していった。
それに対して、アメリカ革命は、植民地が不当に扱われているという不満から始まったが、植民地の人々は生死の境をさまよっていたわけではなかった。革命の目的は、イギリスの支配から脱して、自分たちの自由な国を建設することだった。
そして、建国の父たちは「公共的自由(public freedom)」という概念を中心に据え、持続可能な政治的秩序を作り上げた。
“トランプ革命”の本質は、アメリカ革命に基礎を持つアメリカの民主主義の破壊でありアメリカの理念の崩壊なのだ。