アドリブ演奏をするジャズピアニストの脳を調べたところDMNの活性化が認められたが、同じピアニストが譜面通りに演奏した時にはそこまで活性化されなかった。同じ現象がラッパーにもアドリブで歌う場合と用意された歌詞を歌う場合で見られた。即興性があるほど〈ぼんやり脳〉は活性化するのだ。

 つまり〈ぼんやり脳〉は人間のクリエイティブな能力に重要な役割を担っているということだ。創造的な活動をするとオンになるわけだが、ADHDの人が特定の分野でクリエイティブになれるのは、この〈ぼんやり脳〉をオフにしづらいからだとも言われる。

 しかし実は他にも理由がある。

雑音をキャッチしてしまう人は
創造性にあふれている

 各種の創造性テストも1つの方法だが、実際に抜きん出てクリエイティブな人の何が特別なのかを探るという方法もある。

 ハーバード大学では100人近い学生を調査したが、中には作曲、絵画、詩や文学といった分野で評価され、「極めて創造性のある業績を上げた学生」に選ばれた学生も含まれていた。

 創造性を分析する時、クリエイティブな分野で業績を認められる人とそうではない人の何を比べればよいだろうか。IQテストの結果を比較して、クリエイティブな人はどういう点で頭が良いのかを調べる?

 ハーバードの研究者はそれとはまったく違う点に着目した。「気が散る要素を無視する能力」だ。抜きん出てクリエイティブな人は気が散るような音を無視するのが果たして得意なのか苦手なのか――?

 創造性豊かな人は気が散る音を無視するのが得意なはずだと推測できる。創作プロセスに夢中になり、気が散るどころか深く集中しているはずだと。

 ところが結果は真逆だった。クリエイティブな人は無視するのがむしろ苦手だったのだ。不思議なことに換気扇の音すら無視できなかった人の方がクリエイティブだった。

 しかもその差はけっして小さくはない。「極めて創造性のある業績を上げた学生」に選出された人は、音などの気が散る要素を無視するのが苦手な可能性が得意である場合の7倍に及んだ。

 そんなにすぐ気が散り、換気扇の音にも集中が途切れるような人がなぜ創造性を〈強み〉にできるのだろうか。普通ならば換気扇の音は「どうでもいいもの」として意識から排除され、無視できる。数分後には覚えてもいないだろう。脳はもちろん換気扇の音を常に認識してはいるが、その情報は意識まで送られない。

 しかし人によっては音を常に新しく「興味深いもの」として認識してしまう。これは脳が重要ではないものを排除するのが苦手なせいで、研究用語では「リーキー・アテンション」と呼ばれる。

雑音に弱い脳の方が
創造的という意外な事実

 面白いのはこのリーキー・アテンションこそが思考の流れを増やし、自由な発想をする能力を高めていて、その人をクリエイティブにしているようなのだ。