何も考えていないようで
活発に動いている脳みそ
しばらく椅子の背にもたれてみてほしい。何か特定のことを考えることなく、リラックスして思考が流れるままにする。そんな時、どんなことが頭に浮かぶだろうか。わけもなく今日やったことを思い起こすかもしれない。あるいは夕食に何を食べようか、明日の天気はどうなるだろうといったことだろうか。
こんなふうにぼんやりしている時に脳の中で何が起きているかというと、リラックスしたことで脳の活動が抑えられている。と言うとスマホの待受け状態のようなイメージが浮かぶかもしれないが、受け身にぼーっと考えている時にも実は脳のある部分が活発になっている。
脳内のあちこちの部分が形成する「デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network=DMN)」が活発になるのだ。
DMNは〈ぼんやり脳〉とでも言えばいいのか、脳が特別なことはしていない時に活発になるネットワークだ。
このDMNが英語で「stream of consciousness(意識の流れ)」と呼ばれる自発的な思考の流れをつくると考えられている。
心の中で自分と対話して、「ランチはお寿司よりラザニアが食べたい」「リビングの壁紙はもう少し暗い色のほうがよかったかも……」などと考えている時に活発になるのだが、その状態から能動的に行動に移ると――例えば上司からメールを書いてくれと頼まれるとDMNの活動は抑えられ、今度は脳の実行機能を司る「タスク・ポジティブ・ネットワーク(Task Positive Network)」が目を覚ます。メールを書いている間は計画や衝動の制御を司る部分が活発になるのだ。
ぼんやりしている時に
人はアイデアが浮かぶ
脳の実行機能を司る部分は通常はぼんやりするネットワークと同時には活性化しない。実行機能がオンになるとDMNはオフになり、実行機能に場を譲らなくてはならないからだ。
両方同時に活性化していたらメールを書いている最中も気が散って集中できない――そう、ADHDはまさにそういう状態なのだ。メールを書こうと決めてもDMNがオフにならず、実行機能と同時に活発なまま。場を譲ろうとせずに邪魔をする。脳の「ぼんやりプログラム」をオフにするボタンが鈍いようなのだ。
DMNという名称はぼんやりするという行為にかっこいい科学用語の名前をつけただけのように思えるかもしれない。何の役にも立たないと思う人も多いだろう。
ではなぜ進化はぼんやりして集中を妨げるような機能を脳に組み込んだのだろうか。そんなネットワークなどない方がよかったのでは?
しかしそんなに単純な話ではない。DMNは名前だけかっこよくて集中の邪魔をするのではなく、創造性の源になる自発的な「アイデアの流れ」をつくっているのだ。