専門的な学習への向き合いがパラレルキャリアの起点

 1人目は、つるの剛士さんです。

 つるのさんは、タレント・歌手・俳優として幅広く芸能活動(=メインキャリア)を行うかたわら、40代半ばから短期大学や(4年制)大学に通い、教育学や心理学などの勉強を続け、幼稚園教諭2種免許、保育士資格を取得し、幼稚園の非常勤の先生(=パラレルキャリア)を勤めることもあります。

 パラレルキャリアのスタートは、「専門的な学習をしたい」と考え、短期大学に通い始めた2020年、44歳のときからだと考えられます。

 きっかけは、人生100年時代の折り返しの年齢に近づくなか、「これから、どんなふうに生きていくのだろう……」と考えたことや育児休職をとったことが影響したようです。心理学用語としてよく使われる「ミッドライフ・クライシス」の時期での心の葛藤があったことも背景にあったと語っています。

 パラレルキャリアの効果については、多数言及されていますが、次の2点にまとめられます。

 1つ目は、自分自身に対する効果(以下は、つるのさん本人の語り)。

「子育て経験での『点』と『点』が、学問を通して『線』になっていく――それがとても心地よかった」

「時間をかけて得た知識が蓄積され、確実に自分のものになっていくことがうれしいですね」

「プロフェッショナルと呼ばれる人たちがいて、みんなとの交流で、僕の人生が豊かになっている」

 2つ目は、家庭内の好循環効果。

「これまで、家庭のなかでは、僕が一方的にしゃべることが多かったけど、最近は妻の話を聞くことが多くなった」

「大学の試験期間中に僕がリビングで勉強していると、子どもたちも集まってきて、同じように勉強を始める」

 つるのさんのケースは、前々回(連載第6回)で示した3つの“付加価値のあるパラレルキャリア”のうちの2つ目の、学びの要素を多く含む「将来布石型パラレルキャリア」に相当します。

(筆者注)連載第6回で、“付加価値のあるパラレルキャリア”として、(1)本業改善型,(2)将来布石型,(3)社会課題解決型の3つの類型をあげていますのでご参照ください。

 パラレルキャリアの実践効果は、自身の人生の豊かさにつながることと、家族関係や周囲の人への好影響であることが、つるのさんの発言から推察されます。

 自分が知りたいと思い、学び始め、学びを楽しみながら、次の学びへと進め、学んだことを家族生活など現実の生活とリンクさせて活用し、さらにはそれを周囲の人の役に立てるところまでつなげている点が素晴らしいと、私は感じました。

 インタビュー記事のなかには記憶に残る言葉がたくさんありますが、私が特に印象的だったものを紹介します。

「日常生活や仕事で避けられないのが想定外のハプニングや目の前に立ちはだかる壁。誰もが、できることなら、そうしたものに遭遇したくないが、誰もが壁に突き当たる。『それこそがチャンス!』ととらえること」

「進む道に迷うと、現在はネットで『検索』しようとする。それは手っ取り早いけど、ネットで得た答えは、自分以外の誰かが考えたもの。自分の足を使って、転んだり、傷だらけになったり、たとえ、多くの困難があっても、もがくことが大切。そうして初めて生きた答えが出てくる。それが、やがて、血となり、骨となる。“答え”というものはそう簡単に見つかるものではなく、“検索”よりも“探索”することが大切」

▲つるの剛士さんは「フレッシャーズ・コース2026」の第3巻に登場している。▲つるの剛士さんは「フレッシャーズ・コース2026」の第3巻に登場している。