特に、トランプ氏は、ブラジルに対しては、トランプ氏と親しいブラジルのボルソナロ前大統領への裁判などを突然問題視し、当初は0%とした相互関税の「上乗せ分」を40%まで引き上げた上で、8月1日に発動するとした。また、カナダに対しても、関税交渉が難航していることを背景に、8月1日から35%の追加関税を課すことを突如発表した(7月11日時点で詳細は不明)。

 このように、トランプ関税は各国との交渉材料という側面に加え、追加関税のタイミングや関税率などについて、トランプ氏の思い付きで進められることが散見される。FRBにとっては、経済を見定めるための前提条件が常に揺れ動く状況に置かれているといえよう。

トランプ関税はインフレと雇用
どちらに強く影響するか不確実

 第二の不確実性は、トランプ関税が米国経済にどう影響していくか不透明ということである。これは、米国企業が、巨大な関税負担にどのように対応するか決めかねていることが背景にある。

 トランプ関税により、米国企業全体の関税負担は、毎月70億ドル程度から毎月300億ドル程度まで急増している。米国企業にとって、(1)輸入相手(海外輸出企業)に値引きをさせる、(2)米国企業が自ら追加関税分を吸収する、(3)追加関税分を転嫁して消費者に負担させるという選択肢が考えられる。

 このうち、(1)海外の輸出企業に値引きをさせる動きは、現時点では限定的と考えられる。このことは、米国の輸入物価から確認できる。輸入物価は関税を除いたものだが、直近の5月にかけては大きな動きがない(図表)。日本の自動車メーカーは米国向け輸出に際して相当に値引きしていることが分かっているが、こうした動きは一部であり、海外の輸出企業全体では関税を負担する姿勢にはなさそうである。

 そうなってくると、米国企業は、(2)自ら関税分を吸収・負担するか、(3)販売価格を引き上げて消費者に負担してもらうかの判断に迫られることになる。ただ、(2)自ら関税分を吸収・負担するとしても、米国企業は収益面で余裕があるわけではない。

 例えば、財(モノ)の販売の前面に立つ小売業者については、大手13社の営業利益率は平均でも6%程度とさほど高くない。仮に、輸入消費財に対する追加関税分を小売業だけが負担することとなれば、営業利益率の2%程度が引き下げられる試算となる。これは、営業利益全体の3分の1にあたり非常に大きい。当然、小売業はコスト削減を迫られ、その矛先は雇用面に及ぶこととなる。