戦場の海兵隊員は決して将校に敬礼をしない。敵の射手に狙われるおそれがあるからだ。ここではそんなことはありそうにないが、それでも決まりは決まりだし、命を危険にさらしてまで敬意を表明したせいで准将に叱責されるなんてまっぴらだ。
「おはよう、若い戦士諸君」マティス将軍は言葉を交わすために立ち止まった。すらりとした体格で眼鏡をかけ、革のショルダーホルスターに拳銃を収めている。前置きも雑談もなく、将軍はいきなりわれわれのアフガニスタンでの任務を称えた。
「きみたちはここですでに大きな貢献をしている。それを理解してもらいたい。米国にはアフガニスタンの地上に部隊を送る度胸があると、きみたちが証明しているんだ。諸君の存在が北部同盟(編集部注/アフガニスタンにおける反タリバン勢力)に勇気を与え、カンダハール(編集部注/南部に位置する、同国第2の都市)でタリバンとアルカイダに改めて圧力をかけることになっている。アメリカの国民が不安でたまらない時に、安心を与えているのはきみたちだ」
マティス将軍は握手しながらもう片方の手で相手の肘の後ろをつかむという、いかにも将軍らしい力のこもった握手をわたしたちひとりずつと交わした。わたしの中には泰然としていたい気持ちもあったが、ジムもわたしも鼻高々で本部のテントへ向かった。
凍える夜の只中に将軍は
部下の隊員たちと共にいた
別の日の夜遅く、わたしは小隊の防御線を歩き、隊員たちの様子を見て回った。真夜中を過ぎると100キロ四方の環境照明はすべて消え、内燃エンジンの音を聞くのもせいぜい30回ほどになる。空気があまりに澄んでいるため、はるか彼方にヘッドライトや焚火が見えたと報告してきた巡察中の隊員も、実は星が昇るのを見ていただけだった。
その防御線に沿ってさらに行くと、滑走路の端に近い砂利だらけの平地の真ん中に別の戦闘壕がある。