わたしは慎重に後方から近づいて“誰何”(訳者注/味方を判別するための掛け声)に耳を澄ました。そこにいるのはロケットランチャーを備えた強襲班で、ふたりの隊員が起きているはずだった。
ところが、月明かりの空を背に、3人の頭の影が見える。わたしは砂がばらばらと落ちる音と共に、壕の中に滑りこんだ。マティス将軍が砂嚢の壁に寄りかかり、三等軍曹と上等兵を相手に話をしていた。
これこそ真のリーダーシップだ。マティス将軍が個室で毎晩8時間睡眠をとり、副官に毎朝起こしてもらい、軍服にアイロンをかけたり戦闘糧食(MRE)を温めたりしてもらったところで、疑問を持つものなどひとりもいないだろう。なのに将軍はここにいる。凍える夜の只中に、部下の隊員たちと共に防御線の壕にいるのだ。
マティス将軍は強襲班の隊員たちに、何か不満はないかと尋ねた。
「ひとつだけあります、准将。われわれはまだ一度も北へ敵を殺しにいっていません」
将軍は隊員の肩を軽く叩いた。わたしは将軍が昔かたぎで、部隊のあり方としてむき出しの攻撃姿勢を何より重視すると聞いていた。
「おまえも行くぞ。行くことになる。あの悪党どもが合衆国海兵隊員に会ったが最後、やつらの哀れな人生の中でもこれ以上ないほど悲惨な目にあわせてやろう」
マティス将軍が説いた
戦闘における7つの原則
マティス将軍(訳者注/アフガニスタンから帰国後、准将から少将に昇進)は動的な人物だ。アフガニスタンで会った者たちはその人本人に魅了され、ほかの者たちはその評判に魅了された。襟の星は率いる者と率いられる者の間に壁をつくることがあるが、マティス少将の場合、階級は英雄のイメージをさらに強めるばかりだった。
マティス将軍は士官であり、将であり、海兵隊員たちを理解する人物であり、何より本人が海兵隊員のひとりだった。わたしはウィン(編集部注/マイク・ウイン一等軍曹。小隊長の筆者を支える部下)の視線をとらえ、体を寄せて小声で訊いた。「マティス将軍のコールサインを知ってるか?」ウィンは首を横に振った。「カオス。めちゃくちゃかっこいいよな?」ウィンは感じ入ったようにうなずき、マティス将軍が話しはじめた。