お客様にアポイントを取ろうと電話をしても、ほとんど相手にもされません。
それどころか、名刺を差し出すと「なんだ、プルか……」と露骨に嫌悪感を示す人もいる始末。プライドはズタズタにされましたが、完全歩合制ですから、「結果」を出さなければ報酬はゼロ。家族を養うためにも、がむしゃらにアポイントを入れて、営業に駆けずり回るほかありませんでした。
ところが、その“やる気”が裏目に出ます。
「保険を売ろう」とするあまり、お客様の不信を買い、距離を置かれるという悪循環にはまってしまったのです。気がついたら、新規営業のために連絡する相手も尽きかけていました。転職からわずか半年で、「このままいったら、終わる……」というところまで追い詰められてしまったのです。
このころは、本当に苦しかった。正直に白状すると、「日本一の営業会社で、日本一の営業マンになる」などと勇ましいことを言ってTBSを退職したことを、何度も後悔したものです。でも、もう後戻りはできない。なんとしても「結果」を出すしか道はありませんでした。
トップアスリートも「普通の人間」と変わらない?
そんな僕を鼓舞してくれた存在があります。
TBS時代に接してきた数多くのトップアスリートたちです。
類稀な「才能」を生まれもち、圧倒的な「結果」を残してきた彼らは、僕にとっては雲の上の存在であり、憧れと尊敬の対象です。だけど、身近に接するなかで、彼らも「普通の人間」であることに気付かされてきました。
一般人と比べれば、彼らはきわめて優れた「才能」に恵まれていますが、トップクラスの選手たちのなかでは“ドングリの背比べ”のようなもの。むしろ、ライバルと比較することで、自分に「足りないもの」と向き合う毎日を送っています。その姿は、僕たち「普通の人間」と変わらないように思うのです。
それに、彼らにだって、モチベーションが上がらないこともあれば、苦しい練習に励む「理由」を見失いそうになることもある。スランプに陥って投げやりな気持ちになることもあれば、プレッシャーに押しつぶされそうになることもある。そんな「弱さ」を抱えながら、必死にもがいているのが、彼らの本当の姿なのです。
「アスリート思考」とは何か?
では、何が彼らを「特別な存在」にしたのか?
僕は、彼らと接するなかで、彼ら特有の「思考法(マインドセット)」、あるいは「思考のクセ」があるということに気付きました。
もちろん、トップアスリートはみなさん個性的ですから、その個性に応じて「思考法」もさまざまです。それでも、枝葉の部分を切り落として、幹の部分を取り出せば、ほとんどのトップアスリートに共通する、王道と言っていいような「思考法」(それを、僕は「アスリート思考」と名づけました)が存在すると思うのです。
●「自分の弱さ」を認めることから始める
●「やるか、やらないか」の二択を自分に迫る
●「前向きな内省」を突き詰める
●「コントロールできないこと」は考えない
●嫌なことがあったら「感謝」する
●「やる気」を頼りにせず、やらざるを得なくなる「仕組み」をつくる
●「これが限界」という一線を少し超える負荷を自分にかける
●やるべきことを徹底的にやれば、「結果」は自然とついてくると考える
僕が見るところ、圧倒的な「結果」を出し続けるトップアスリートは、誰もがこうした「思考法」を貫いていました。逆に、たとえズバ抜けた「才能」に恵まれていたとしても、こうした「思考法」に欠ける選手が大成することはないように思うのです。
ビジネスにも通用する「アスリート思考」
重要なのは、この「アスリート思考」は、スポーツにだけあてはまるのではなく、ビジネスをはじめあらゆるテーマに通用するに違いないということ。そして、僕のような凡人にも、この「思考法」を身につけることは可能ということです。
しかも、スポーツの世界と比べれば、ビジネスの世界では「才能」が成功の要因として占める割合は小さく、どんな「思考法」や「思考のクセ」をもっているかで結果が決まると感じています。
そこで僕は、こうした「アスリート思考」を徹底的に実践することで、営業マンとして巻き返しを図ることにしました。もちろん、すぐに結果につながるわけではありません。
しかし、愚直に「アスリート思考」を実行し続けることで、徐々に状況は変化。好循環が始まると、それはどんどん加速していき、気がついたら、転職一年目にしてプルデンシャルで「日本一」になることができたのです。
その後も、「アスリート思考」を追求し続け、入社3年目には、卓越した生命保険営業のエキスパートに与えられる称号「TOT(Top of the Table)」を獲得。最終的には、TOT基準の4倍を超える成績を上げることができ、プルデンシャル生命史上最高の営業成績(当時)を打ち立てることもできました。
そして、在籍8年でプルデンシャル生命を退職。2020年に、AthReebo(アスリーボ)という会社を設立して、現在に至ります。
錚々たるトップアスリートの「思考法」を抽出
AthReeboという社名は、Athlete(アスリート)とReborn(リボーン、再生)を掛け合わせたもので、文字通り「アスリートを再生する」という願いをこめています。
引退したアスリートに、働きながら社会やビジネスのことを学ぶことができる機会や場所を提供することを目的に、アスリーボという会社を設立。将来的には、我が社が、アスリートとして培ってきた能力・スキルを活かしながら、社会で活躍する「インフラ」となることで、「アスリートのセカンドキャリア」という言葉をなくしていきたいと考えています。
『超☆アスリート思考』という本は、アスリーボの事業目的にご賛同いただいている、野村忠宏さん(柔道)、伊達公子さん(テニス)、古田敦也さん(野球)、潮田玲子さん(バドミントン)のほか、川合俊一さん(バレーボール)、井上康生さん(柔道)、栗原恵さん(バレーボール)、福永祐一さん(元騎手・調教師)、松坂大輔さん(野球)など錚々たるアスリートにもご協力をいただいて、「アスリート思考とは何か?」について徹底的に深掘りしてまとめ上げたものです。
「アスリート思考」は誰にでも実践可能なものであり、愚直に実行すれば必ず「結果」に結びつく強力なスキルです。大切なのは、本書の内容を「知識」としてストックすることではなく、コツコツと実践し続けることです。誰にでもできる小さなことを、誰にも真似できないレベルで徹底的にやり続けることこそが、その神髄なのです。
そして、そのプロセスを誤魔化すことなく一歩ずつ歩み続けることで、自分への信頼感、自分への肯定感が養われることによって、日々の充実感や、人生の豊かさをも実感できるようになります。ぜひ、僕たちと一緒に「アスリート思考」を実践して、その感覚を実感していただければと心より願っています。
(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。