こうして「試合で勝てる選手」へと成長した
野村さんは、「えー! 休んでええと言ったやん!」と思うと同時に、「なんやお前は、そんなもんか」という言葉に腹の底からムカッときたそうです。
そして、「ナニクソ」という気持ちで、さらに5分、10分とチャレンジしてみると、限界ギリギリでヘロヘロではありながらも、なんとか動ける。
こうして、自分が決めつけていた「限界」を超えて、かすかに残っている心と体のエネルギーを振り絞って出し切るような練習ができるようになったことで、この後、野村さんは「試合で勝てる選手」へと急速に成長していったのです。
京大アメフト部の名将が考えた「弱者の戦略」
このエピソードには、僕にとって非常に重い「教訓」があります。
というのは、僕が京都大学アメリカンフットボール部の選手だったころに置かれていた状況に、少し近いシチュエーションだからです。
当時の京大アメフト部の監督だった水野弥一氏の指導は非常に厳しいものでした。
練習一つとっても、プレッシャーなく、楽しく気軽にプレイするようなことは一切やらせてくれません。
ひたすら泥まみれになりながら、地べたを這いずり回るような、本番の試合以上に厳しい練習を徹底的にやらされたのです。
そこには、京大アメフト部が勝つための、きわめて合理的な理由がありました。
ライバル校は「アメフトのエリート選手」を集めていますから、受験勉強ばかりやってきた京大の選手とは「競技レベル」が違います。京大の選手が、楽しく気軽に華麗なプレイで勝てるなどということは100%ないわけです。
そんな京大が勝機を見出すためには、身体能力と技術に優る「エリート選手」に食らいついて、その華麗なプレイを封じ込めるしかありません。そして、泥沼のような苦しいゲームに引き摺り込むのです。
だからこそ、水野監督は、僕たち選手に地べたを這いずり回るような過酷な練習と本番以上のプレッシャーを強いたのです。
一生懸命やっている「つもり」
僕は、その戦略に腹の底から納得していました。
そして、「日本一になる」と公言して、一生懸命やっている「つもり」でした。
だけど、「もうこれが限界」というところまで練習をして、そこからさらにもう一歩踏み込んだ練習をするという領域に踏み込むことはできませんでした。要するに、本気ではなかったのです。
そして、そのことを自分自身でも気づいていました。もちろん、水野監督もそれを見抜いておられたので、何度も僕を真正面から厳しく問い詰め、発破をかけ続けてくださいました。
だけど、僕は限界を超えてまで追い込むことが怖く、追い込んだにもかかわらず結果が出ないことが怖く、結局、追い込んでいるフリをし続けることしかできませんでした。そして、当然のことながら、僕たちのチームが「日本一」になることもなかったのです。
「自分の弱さ」から目をそらす人の“悲しい末路”
要するに、僕は「自分の弱さ」から目をそらしていたのです。
あのころの僕は、野村忠宏さんのように「自分は、そんな厳しい練習に耐えられるほど強くない」と認めるのではなく、「自分は、厳しい練習に耐えている」という嘘を自分につき続けていました。
そして、その自分の嘘に気づかないフリをしていた。
そうすることで、「自分を追い込む怖さ」から逃げていたのです。
ここに、人生の大きな分かれ道があるような気がしてなりません。
もちろん、「自分の弱さ」から目をそらさず、その「弱さ」を克服する努力をすれば、必ず、野村さんのようになれるわけではありません。
だけど、「自分の弱さ」から目をそらしている限り、その「弱さ」を克服することは絶対にできません。それどころか、かつての僕のように、自分に嘘をつき続けるような生き方に陥ってしまうのです。
「自分の弱さ」としっかり向き合う――。
これこそが、「強い人間」になるための出発点なのです。
(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。