経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課課長補佐の平井篤氏(右)と同課係長の沼澤駿斗氏
認知症及び軽度認知障害のある人の数が急増している。合計数は2022年で1000万人を超えたと推計される。認知症になってからも自分らしく暮らし続けられるために必要な製品・サービスが求められる。その開発に認知症当事者が参画し、企業と共創する「オレンジイノベーション・プロジェクト」を経済産業省が推進している。同省商務・サービスグループヘルスケア産業課の課長補佐の平井篤氏と同課係長の沼澤駿斗氏に、プロジェクトの狙いや効果、関連市場規模などについて聞いた。前後編に分けてお届けする。(聞き手・文/ダイヤモンド社論説委員 大坪 亮、撮影/瀧本 清)
認知症の人の真のニーズを
反映した製品を開発する
――オレンジイノベーション・プロジェクトとは、どういうものでしょうか。
平井 認知症になってからも、自分らしく暮らし続けられる「共生社会」の実現を目指したプロジェクトです。認知症の人が主体的に企業や社会等と関わり、認知症当事者の真のニーズをとらえた製品・サービスの開発を行う「当事者参画型開発」の普及を推進します。また、その開発の「持続的な仕組みの実現」に向けて取り組んでいます。
――なぜオレンジという色が名称に付いているのですか。
沼澤 当初は当事者参画型開発という名称で進めていました。ただ、漢字が多くて少しとっつきにくい印象があり、新しいプロジェクト名を検討しました。日本ではオレンジが認知症支援カラーとして、認知症当事者にも浸透しています。より一層、社会に浸透させていきたいという意図もあり、認知症に関する技術革新を「オレンジイノベーション」とし、プロジェクト名に設定しました。
――沼澤さんは経済産業省でこのプロジェクトのご担当ということで、髪色をオレンジにされているのですね。日本でオレンジがシンボルカラーなのはなぜですか。
沼澤 江戸時代の著名な陶工の酒井田柿右衛門が手がけた柿色の陶器(赤絵磁器)からインスピレーションを受けているようです。その陶器が国内外に高く評価されているように、認知症サポーター※も「世界で認められるように」という願いを重ねています。また、オレンジは暖かさを感じさせ、「手助けします」という意味を持つことから、2005年より認知症サポーター養成講座の修了者に交付されるラバーバンドの色に採用されました。その後、国の認知症施策など、さまざまな取り組みでオレンジが用いられシンボルカラーになったといわれています。
※ 認知症について正しく理解し、偏見を持たず、認知症の人や家族を温かい目で見守る「応援者」(特定非営利活動法人 地域共生政策自治体連携機構ホームページ参照)
――認知症に対する最近の政策はどのような経緯をたどってきたのでしょうか。
沼澤 19年に、国や地方公共団体や各業界団体、認知症当事者らが一体となって認知症バリアフリーの取り組みを統合的に推進していくべく、日本認知症官民協議会が設立されました。協議会の下には、厚生労働省が事務局を務める「認知症バリアフリー」と、経済産業省が事務局を務める「認知症イノベーションアライアンス」の2つの ワーキンググループ(WG)が設置されました。
認知症イノベーションアライアンスWGでは、認知症の人の尊厳・思いを尊重しながら、生活を支える広範な産業と公的機関・医療・福祉・関係者等が連携し、イノベーション創出に向けた検討を実施しています。
認知症になってからも、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるためには、身の回りの製品・サービスが、認知症の人にとって使いやすいものであることや充実していることが必要です。しかし、そうした製品・サービスは現状、十分に提供されているとはいえません。要因として、認知症の人のニーズが、開発を行う企業に届いていないことが考えられました。
そこで21年度から実践を開始したのが、認知症の人が開発プロセス(企画、実施、評価等)に参画し、ニーズを伝え、使いやすい製品・サービスを開発する「オレンジイノベーション・プロジェクト」です。
――参画企業は何社ですか。
平井 今年度は58社です。経済産業省の当プロジェクトのウェブサイトに並んでいる各社のロゴをクリックしていただくと、個々のサイトで具体的な取り組みを見ることができます。








