勉強、仕事、筋トレ…やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』だ。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。本稿では、本書より一部を抜粋し、「自分に合ったモチベーションの高め方」を紹介する。

「スリムになりたい!」と思ってダイエットに励む人
私の友人であるAさんとBさんは、一見すると、同じ「痩せる」ための行動をしているように見えるのですが、2人の目標に対する捉え方とアプローチは全く異なります。
Aさんは「スリムになりたい」という目標に向けて、頑張っています。
運動に励んだり、エステに通ったりしています。
「痩せるエクササイズ」なんて見出しのついている雑誌やYouTubeを見つけては、すぐに試そうとします。
効果がないかもしれない、なんてことは考えません。
多少費用がかかっても、ダイエットのグッズを見つけるとすぐに購入しています。
このように、Aさんは、少しでも成功する可能性がある限り、多少のリスクやコストには目もくれず、目標に向けて邁進しようとします。
いろいろなことを試したいという「切望」の感情をもっています。
「太りたくない!」と思って、ダイエットに励む人
一方のBさんは「太りたくない」という目標に向けて、頑張っています。
カロリーの高い食事を摂らないようにしたり、間食を控えたりしています。
ファミレスに行くと、メニューのカロリー表示をすみずみまで確認します。太る恐れがあるものは、一切排除しようとしているかのようです。
効果があっても、リスクもある(たとえば、リバウンドする可能性がある)食事法には決して手を出しません。
このように、Bさんは、失敗の恐れがないかどうかよく吟味してから判断を下そうとします。
リスクに対して「警戒」の感情をもっています。
あなたはどっち? 獲得型、防御型?
「スリムになりたい」と「太りたくない」は、目標(理想的な最終状態)は同じですが、考え方は全く異なります。
考え方が異なるため、目標へのアプローチも異なっています。
心理学者のヒギンズによると、これらの2人の違いは、「フォーカス(焦点)」の違いになります。
Aさんのアプローチは、ヒギンズが「獲得型」と呼んでいる思考にフォーカスしています。
獲得へのフォーカスは、何かを手に入れたり、達成したいと切望したりすることから生じます。
利益を得ることにフォーカスしています。
Aさんは、理想的な体型を手に入れたいと切望しているのです。
一方、Bさんのアプローチは、ヒギンズが「防御型」と呼んでいる思考にフォーカスしています。
防御へのフォーカスは、安全と危険に注目します。
それは責任や義務を果たすことであり、すでにもっているものを失わないことです。
損失を回避することにフォーカスしています。
カロリーの高い食事を摂らないように注意を払っている時、Bさんは太るというリスクを避けようとしているのです。
日常生活のあらゆる場面で違いが出る
大学生にも、この違いが見られます。
試験前の大学生を観察すれば、良い成績をとりたいと思って試験勉強に励んでいる学生と、悪い成績をとりたくないと思って試験勉強に励んでいる学生がいます。
どちらの学生も、試験に向けて一生懸命に努力していますが、そのためのアプローチが異なります。
前者の学生は、授業で出された課題以外のこと、たとえば授業では使用していない専門書を講読したり、研究会に出席したりすることを好みますが、後者の学生は、授業で出された課題を注意深く何度も何度も遂行する(つまり、できない問題を見落とさない)やり方を好みます。
アスリートにも、この違いが見られます。
テニス選手を見ていると、ミスを恐れず、ラインすれすれのサーブを打ってくる攻撃重視のプレーヤーと、確実なプレーをして、相手のミスを待っている守備重視のプレーヤーがいます。
投資家も同様です。利益は高いけれどリスク(損失)も高い運用を好む投資家もいれば、利益は高くはないけれどリスク(損失)も高くない運用を好む投資家もいます。
このように、同じ目標を目指しているように見えても、獲得型と防御型のどちらの思考にフォーカスしているかで、大きな違いが生じます。

タイプによって、効果的なモチベーションの高め方は異なる
ほとんどの人は、獲得型と防御型のどちらかの思考にフォーカスが偏っています。
6日目の講義では、この獲得型と防御型の違いに注目します。
獲得型と防御型は、どちらが優れているといった類のものではありません。どちらにも良いところと悪いところがあります。
誰しも両方の思考をもっていますが、たいていはどちらかの思考を好み、それが日々の選択、感情、行動に影響を及ぼします。
そのため、自分がどちらのタイプなのかを把握し、自分に合った心理的作戦を用いる必要があります。
あなたは「獲得型」「防御型」どちらですか?
本書では、3つの方法で、あなたが獲得と防御のどちらの思考にフォーカスしているかを見ていきたいと思います。
※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。本書ではこの他にも、心理学の研究に触れながら、目標に向かって行動するためのメソッドをたっぷり紹介しています。