「AIの力を引き出すには、適切な“聞き方”が必要です」
そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に研修をしてきた石井力重氏だ。「AIを仕事の効率化に使うだけではもったいない。適切に使えば“頭を使う作業”にも大いに役立ちます」と言う。そのノウハウをまとめた書籍『AIを使って考えるための全技術』が、「AI回答の質が目に見えて変わった」との声が相次ぐなど発売直後から話題になっている。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も制作に協力した同書から、AIの便利な使い方を紹介しよう。

AIから「理想の答え」を引き出す技法
「AIが出してくる答えって、正直微妙だよね」
「なんか“違う”よね…」
そんな声を聞きますが、それは「聞き方」が悪いだけ。創造的なアウトプットを生み出すためには、適切な「使い方」が必要です。
たとえば、技法その14「理想の状態」は「理想度を高めるためのアイデア」をAIによって手に入れる方法です。価値を最大化した状態を「理想」と定め、そのための手段をAIから弾き出します。
こちらが、そのプロンプトです。
〈商品やサービスを記入〉という商品について、その便益や機能を最大限に発揮させ、同時にコストや潜在的な害を最小限にする理想解を提案してください。そしてそれらをいくつか組み合わせた商品案を考えてください。
「機能・便益をアップする」「コスト・害を下げる」というプロセスや、さらには「最高の機能・便益」「最小のコスト・害」を設定するところも含めて、すべてAIで実行します。
すでに存在する商品やサービスの価値を高めるだけでなく、ポンと飛んだ創造的なアイデアを考えることも可能です。
「帽子」の理想的なアイデアを考えてみよう
では、実践です。超・定番アイテムを取り上げてみましょう。定番ということは、すでにある程度の理想形であるはず。そのなかでさらに便益を向上させることはできるのか。コストはカットできるのか。AIと共に改良・改善アイデアを探してみましょう。
〈帽子〉という商品について、その便益や機能を最大限に発揮させ、同時にコストや潜在的な害を最小限にする理想解を提案してください。そしてそれらをいくつか組み合わせた商品案を考えてください。
AIはどんな機能に着目し、アイデアをひねり出してくるでしょうか。
「帽子」という商品に関する理想解を提案するにあたり、その便益や機能を最大限に発揮させつつ、コストや潜在的な害を最小限に抑えるために考慮すべき点を挙げ、それらを組み合わせた商品案を考えてみましょう。
便益や機能の最大化
・保護機能の強化:紫外線防止、防水性、防風性を持たせることで、日焼け防止、雨天時の保護、寒冷地や風の強い環境での保護を提供。
・快適性の向上:通気性が良く、汗を効果的に吸収・発散する素材を使用し、長時間の着用でも快適に過ごせるようにする。
・機能性の追加:内蔵された冷却・加熱機能、Bluetoothスピーカー、太陽光発電パネルでの電力供給など、多機能性を追求。
・デザインの多様化とカスタマイズ:ファッション性を考慮し、様々なスタイルやカラーバリエーションを提供。取り外し可能な装飾やパーツでカスタマイズ可能に。
コストや潜在的な害の最小化
・環境に優しい素材の使用:生分解性、リサイクル可能な素材を使用し、製造から廃棄までの環境負荷を低減。
・耐久性の向上:長期間使用できるように高耐久素材を選択し、メンテナンスが容易であることを確保。
・生産効率の最適化:最新の製造技術を活用して生産コストを削減し、余分な廃棄物を最小限に抑える。
・安全性の確保:素材や機能追加に際して、使用者の安全を第一に考慮し、すべての年代が安全に使用できる設計を心掛ける。
組み合わせた商品案
エコ・マルチファンクショナル・スマート帽子
素材:生分解性かつリサイクル可能な高耐久素材を使用。
機能:
・紫外線防止、防水・防風機能を基本に。
・通気性と汗吸収性に優れた内側ライニング。
・太陽光発電パネルを利用して、内蔵冷却ファンやBluetoothスピーカーを動かす。
・着脱可能な装飾やパーツでカスタマイズ可能。
デザイン:モダンながらもタイムレスなデザインで、幅広いファッションに合うように。男女兼用で、様々なカラーバリエーションを提供。
コスト:効率的な生産技術と素材の選択により、高品質ながらもリーズナブルな価格設定を目指す。
環境への配慮:使用後は分解してリサイクル可能、または自然に戻る素材を選定。
このように、便益や機能を最大限に引き出しつつ、コストや潜在的な害を最小限に抑えた帽子の商品案は、現代の消費者のニーズに応えるとともに、環境への影響も考慮したサステナブルな選択肢となります。
理想というか、究極? 「エコ・マルチファンクショナル・スマート帽子」は自然に分解される上に高耐久という、難しいけれど理想の素材でできています。いろんなものから頭を守り、快適で、さらには発電して冷却したり音楽を流したりする。脱着可能なパーツでカスタマイズもでき、品質は高くリーズナブル、と。
さてさて、当たり前ながらこの帽子、現在の生産技術ではすべてを満たすことができません。このままでは絵にかいた餅ですが、「理想の状態」を聞いているのでそれも当然。
そこで理想すぎる状態を少し引き戻します。商材によって大きくバラつくでしょうけれども、仮に帽子の製品開発サイクルが3年であれば「3年でできる程度の案」を回答してもらうと、ちょうどいいアイデアが出てくる確率が高まります。
エコ・マルチファンクショナル・スマート帽子は非常に理想的ですが、そのままでは実現が困難なので、そのコンセプトを材料にして、3年ぐらいで市販可能なスペックの商品を何パターンか提案してください。そのアイデアの実現方法もあわせて記してください。
「理想=ひとつだけ」という印象もありますが、アイデアとは未来の可能性。「何パターンか出して」と複数の理想案を聞いてもまったく問題ありません。
エコ・マルチファンクショナル・スマート帽子のコンセプトをもとに、現実的な技術と市場の要求を考慮して、3年以内に市販可能なスペックの商品案を提案します。これらのアイデアは、既存の技術や素材を活用しつつ、持続可能で実用的な帽子を開発することに焦点を当てます。
商品案1:エコ・UVプロテクト・スマートキャップ
主な特徴:紫外線防止機能、通気性、汗吸収性に優れた素材を使用。
技術:紫外線を遮る生地と、通気性を確保するためのメッシュ部分の組み合わせ。
素材:リサイクルポリエステルやオーガニックコットン。
実現方法:
・紫外線防止加工を施した生地の使用。
・リサイクル可能な素材の選定と供給チェーンの確保。
・通気性と快適性を考慮したデザインの開発。
商品案2:ソーラーパワード・クールキャップ
主な特徴:太陽光発電パネルを利用して、内蔵の小型ファンを動かし頭部を涼しく保つ。
技術:軽量な太陽光パネルと低電力消費の小型ファン。
素材:軽量で耐久性のある合成素材。
実現方法:
・既存の太陽光パネル技術を小型化し、帽子に統合。
・低電力で効率的な小型ファンの開発。
・製品の耐久性と安全性を確保するためのテストと改良。
商品案3:ハイブリッド・コンフォート・ハット
主な特徴:防水性と防風性を持ち、取り外し可能な断熱ライナーを備える。
技術:モジュラーデザインによるカスタマイズ可能な機能。
素材:エコフレンドリーな防水素材、取り外し可能な断熱素材。
実現方法:
・防水性能と通気性を両立させる新素材の開発。
・取り外し可能な断熱ライナーのデザインと製造。
・モジュラーデザインによるカスタマイズ性の向上。
これらの商品案は、現在利用可能な技術と素材に基づいていますが、開発過程での技術革新や素材の改良により、さらに高度な機能や持続可能性を実現することが可能です。各商品案は、市場のニーズを捉え、環境に配慮しながら、消費者に新たな価値を提供することを目指しています。
「エコ・UVプロテクト・スマートキャップ」は、現在の素材でも少し背伸びすればできそうな商品案。他にも、太陽光発電で動くモバイルファンを内蔵するという素朴なアイデア「ソーラーパワード・クールキャップ」に、モジュラーデザインで断熱性のあるライナーをつけたり外せたりできるカスタマイズ可能な帽子「ハイブリッド・コンフォート・ハット」など。定番商品だからか、現在に近いアイデアが並んできましたね。
もう少し時間軸を長く取った“未来寄り”の案も聞いてみたいなら、「実現までの射程を10年ぐらいにしたならどんなアイデアになりますか?」と聞いてみましょう。3年先と10年先、その指示の違いをAIがどのように把握し、反映させているのか。私にもそのロジックはわからないのですが、実際にやってみると、当初の究極の未来案と近すぎた3年先案との間に位置するようなアイデアが出てきます。
技法その14「理想の状態」、ぜひ活用してみてください。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。この他にも書籍では、分析、発想、発展、具体化、検証、予測といった“頭を使う作業”にAIを活用する方法を多数紹介しています)