イーロン・マスクは、Twitterを買収後に社員を大量解雇し、組織を大混乱に陥らせた。その背景には、彼の思考スタイルと「共感性の欠如」という特性がある。感情よりも合理性を重んじる彼が、SNSという“感情のかたまり”のような事業にどのような影響を及ぼしたのか――。その全貌を描いたのが、『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)だ。一橋大学特任教授の楠木建氏は、本書を「イーロン・マスクの本質を見事に浮かび上がらせている」と評している。本稿では、その内容をふまえ、楠木氏が「イーロン・マスクとはどんな人物か」を考察する。(全5回のうち第4回)(構成/ダイヤモンド社・林えり)

「他者に対する共感」が決定的に欠けている
イーロン・マスクという人には、他者に対する共感が決定的に欠けている。
行間は一切読まない。何を言われても文字通りに受け取る。
だから、工学やコーディングなど、融通が求められないものを好む。
生まれつきの完璧主義者の彼にとって、人生はコンピューターゲームのようなものだ。
勝つために必要な計画の策定と複雑な資源配分の意思決定を心から楽しみ、何時間も没頭する。
大事なのは勝つこと、しかも大きく勝つことだ。
チームメンバーに好かれる気が毛頭ない
仕事仲間に嫌われることをまったく気にしない。
誰もが無理だと思った成果を上げられればそれでイイ。
「チームメンバーに愛してもらうことなど仕事ではない。そんなの百害あって一利なしだ」とでもいうように、マスクは、声を荒げることなく、冷静に他者を攻撃する。
機嫌がいいときと悪いときがはっきりしており、悪いときは陰険になる。そして、周囲の現実を捻じ曲げてしまう。
「残したい社員を20分でリストアップしろ」
ツイッターの経営者として、社員のリストラに突っ走るマスクの姿は本書にある通りだ。
もちろん、マスクが乗り込んでくる前にツイッターにも大きな問題があった。
放漫経営で人はダブつき、上場企業として規律を欠いていた。
しかし、それにしてもマスクの拙速さは度を越している。
「残したい社員を20分でリストアップしろ」という無茶な指示を部門のリーダーに下す。
解雇が前提で、残したい社員がいるならば、なぜその人を残すのかを説明しなければならない。
場合によっては10年以上もTwitterで働いてきた部下のことを考えれば、20分で選べるわけがない。
まさに文字通りの無理難題だった。
人類全体のことは考えても、自分の周りにいる人のことは考えない
文明のフロンティアを拡張しようとするマスクにとって、人類はマクロな概念でしかない。
人類のことは考えるけれども、自分の周囲にいる他人のことは考えない。
一言でいって、人の気持ちがわからない人だ。