「世界中で話題のストイシズムに基づく新しい人生観が身につく」
「ただの投資本ではない画期的な金融哲学書」
そんな感想が全国から届いているのが『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』(スコット・ギャロウェイ著/児島修訳)だ。
どうすれば不運な目に遭わずに投資で成功し、幸福な人生を送れるのか?
今回はマネックス証券チーフ・ストラテジストで大学でも教鞭を執る広木隆氏に寄稿いただいた。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

本書の主張はたった一行
本書の主張はたった一つの方程式だ。
そしてその意味も要約すれば、
「富を築くには、がんばって働き、無駄遣いしないで浮いた分を長期分散投資で増やす。以上」
と一行で足りる。
前回私は、「数学的思考に優れた人は『富の方程式』を見ただけで全体像を理解できるから、これほど効率的な情報伝達の方法はない」と述べた。
それに対し、だったら400ページ超の分厚い書物である意味は何なんだ? という怒りの声があるかもしれない。
「富の方程式」に続く、400ページに及ぶ様々なエピソードは何のためなのか。
今回はそれを解説したい。
あなたは「数学的思考に優れた人」ですか?
式を見てすべてを理解できますか?
あなたがそうなら確かに400ページは必要ない。
でも、もし、あなたが「数学的思考に優れた人」でなく、一般の人だとすると、数学を修得するためにどんな勉強をしたか思い出してほしい。
そう、練習問題をたくさん解くことである。
400ページを超える本書の残りの部分は、すべてこの方程式を身に着けるための練習問題なのである。
方程式の定義とは?
前回、私は方程式の定義を述べた。
方程式というのは、簡単に言えば、値がわからない変数が入った等式であると。等式とは、左辺と右辺が等しい式のこと。左辺と右辺を等しくするように決まる、その「未知の変数」を求めることを、方程式を解くという。
残りの400ページは、具体的なエピソードが語られる。
それは方程式にいろいろな変数を入れていく作業なのである。
そうして「未知の変数」のおぼろげな形を読者自身にイメージしてもらうのだ。
最強の参考書である理由
それはまさに方程式を解くということに他ならない。
その解法が身につけば、富へのゴールが見えたのも同然である。
まさに本書は、富の蓄積というゴールに向けた「チャート式数学」(数研出版)のような最強の参考書である。
さて、これまで2回にわたって語ってきた「方程式のはなし」だが、一般の人がイメージするのは、成功が約束された勝ちパターンという意味であって、本当の数式ではないのだと述べた。
例に挙げたのは、プロ野球の「勝利の方程式」だが、野球以外でも「○○の方程式」は広く使われている。
例えば、ビジネスでは「成功の方程式」というのがよく使われる。
これは起業やビジネスで成功するための要因や手順を述べたものだ。
企業の成長に必要な要因の組合せを示す「成長の方程式」というのもある。
ほかにも、「夢を叶える方程式」「幸せの方程式」「モテの方程式」などなど。
こうなってくると、なんでも「方程式」にできるように思えてくるが、それだけ広く普及している比喩表現なのだ。
本稿では「○○の方程式」はあくまで比喩だから、本当に数式が出てくる本書に読者は肩透かしを食ったような気になるだろうと書いてきたのだが、実はこれだけ「○○の方程式」が使われる以上、それらにも、一応、数式っぽい表現があてはめられたりする。
例えば、
成功の方程式=顧客志向+革新性
成長の方程式=投資×人材育成
夢を叶える方程式=努力+継続+目標設定
幸せの方程式=満足感+人間関係+感謝
モテの方程式=笑顔×元気
ただ、これらは、一見しただけで、私がテキトーに言葉を当てはめただけだとわかるだろう。
カッコ内の項が「掛け算」になっている理由
それに対し、本書の方程式はまったく違う。
非常に実践的であり、それゆえ真理である。
そして、ここからがまさに本書の方程式が、数学的であることの証明であると同時に、この式が非常によくできていることがわかるだろう。
それは「数学」という演算の約束事を使って、著者の最も伝えたい熱いメッセージを表現しているからだ。
もう一度、この方程式を見てほしい。
富=フォーカス+(ストイシズム×時間×分散投資)
右辺は、フォーカスとカッコ内の項との和である。
カッコ内の項は掛け算になっている。
掛け算の式「a×b」において、「b」を「乗数」と呼ぶ。
この場合、「ストイシズム」が「時間」と「分散投資」という乗数によってレバレッジがかかる。
つまり、ストイシズム=節度ある生活をして貯める投資に回せる資金は、時間をかければかけるほど、また分散すればするほど、その増え方は複利によって大きく(時間の効果)、また安定的に(分散効果)なるということを示している。
この方程式で一番重要なもの
一番重要なのは「フォーカス」だ。
フォーカスはカッコで括られずに外に出されている。独立なのだ。
時間(ここでの時間の意味は複利の効果)や分散の乗数がかからない。なぜか。
それは「フォーカス」が仕事に集中するという意味だからだ。
著者は「人生は何にフォーカスするかで決まる」と言い切る。
また、「ハードワークなしに経済的自立は達成できない」とも主張している。
経済的自立を築くには数十年にわたる努力が必要で、そうした努力はフォーカスなしに維持できないという。
そこには、ラクできる近道や飛び道具はない。
愚直に、まじめに、汗水たらして一生懸命に働くしかない。
だから、時間と分散の乗数がかからないのである。
節度あるくらしで得た投資資金は、時間や分散の効果を最大限活用すればよい。
それと本業の仕事を頑張るというのは別なのだ。
フォーカスがカッコで括られず外に出ているこの式は、まさに地道な努力なくして富は築くことはできないという著者の主張を最も強く表現するものである。
(本書は『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』に関する書き下ろし投稿です)
企広木 隆(ひろき・たかし)
上智大学外国語学部卒。神戸大学大学院・経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。2010年より、マネックス証券株式会社 専門役員/チーフ・ストラテジスト。青山学院大学大学院・国際マネジメント研究科で9年間教鞭をとったのち、2023年4月より社会構想大学院大学教授として着任。テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経プラス9」等のレギュラーコメンテーターを務めるなどメディアへの出演も多数。