また、スポーツの世界を見ても同じことが言えます。AIロボットは人間のアスリート以上の身体能力を発揮できるかもしれません。でも、私たちが観戦者として心を揺さぶられるのは、限界に挑戦する人間の姿であり、障がいを乗り越えて輝くパラアスリートの活躍です。eスポーツにワクワクするのも、競技者が人間だからこそではないでしょうか。

 そこに人間ならではの価値があるのです。

 近年の学習指導要領でも「非認知能力」の育成が重視されています。これは予期せぬ変化が起きるVUCA<変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字をとった用語で、未来が予測しにくい状況を指す>の時代に対応するため、自ら考え行動する力、数値化できない、目に見えない人間らしい力を高めていくことが、子どもたちの将来に必要となるからです。

 恋をすること、家族を持つこと、他者と深くつながること。こうした幸せも、人間にしか味わえません。だからこそ、これからのAI時代を生きる子どもたちには、人間らしい感性や創造性、コミュニケーション能力を磨いていってもらいたい。非認知能力の重要性はこの先ますます増していき、人間力はその子が自分らしい人生を切り開いていくための土台となるのです。

長年に渡りアメリカで行われた
「ペリー就学前プロジェクト」

 教育の世界で非認知能力が注目されるようになったのは、1962年にアメリカで追跡調査がスタートした「ペリー就学前教育プロジェクト」の結果が大きな反響を呼んでからのことです(参照『幼児教育の経済学』ジェームズ・J・ヘックマン著、古草秀子訳、東洋経済新報社、2015年)。

「ペリー就学前プロジェクト」は、1962年から67年の間、アメリカ・ミシガン州に住む低所得者層家庭の3~4歳児の子どもたちを対象にして実施されました。

 123名の子どもたちを2つのグループに分け、就学前教育を施す子どもと施さない子どもを比較。就学前教育を受ける子どもたちは毎日2時間半ずつプレスクールに通って遊び中心の授業を受け、週に1度は先生が各家庭を訪れて90分間にわたり自主性を伸ばす教育を行い、親向けのグループミーティングも実施しました。