「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。
この記事では、本書の内容に関するインタビューを掲載します。(構成:小川晶子)

「自分はできている」という勘違い
――自分の強みを活かして仕事をすることができれば幸せなのではないかと思うのですが、そもそも強みを見つけるのが難しいという問題があります。どうやって自分の強みを見つければいいのでしょうか。
山口周氏(以下、山口):「強みは何か」というのは、危険な問いなんですよ。経営学の世界では「ダニング=クルーガー効果」として広く知られている現象があります。自分の能力を実際よりも高く評価してしまう現象です。特定の技能について成績を4段階に分けたとき、トップレベルの人は自分の能力をよくわかっています。2番目の人もわかっている。ところが、もっとも成績下位の人の自己評価はトップレベルの人と同じなんです。
――勘違いしているわけですね。
山口:たとえば、「自分は平均以上に運転が上手だ」と答える人は9割くらいいます。おかしいですよね。私たちは「自分は何が得意か」という判断に関して相当ポンコツな判断能力しか持っていないのです。
「憧れ」と「得意」は混ざりやすい
山口:もう一つ言うと、「自分はこれが得意だ」と思っているものは、憧れと混ざっていることが多いんですよ。僕はモノ作りに対する憧れがあって、自分でも得意だと思っていました。家族からもそう言われていたし、子どもの頃からお絵かきも音楽も好きだったんです。キャリアのスタートは広告代理店の電通で、CMプランナーとかクリエイティブディレクターになるつもりでした。ところが、僕が出すプランが全然採用されない。当時は何故なんだと悩みましたね。
当たり前ですが、クリエイティブが得意だという人が日本全国から集まっているわけですよね。その中で頭角を現すには、「クラスで一番得意」程度ではまったくダメなわけです。
――「こうなりたい」という憧れがあると、「ちょっと得意」を過大評価しがちかもしれません。
山口:一方で、経営戦略的な議論になったり、組織論の話になったりすると評価され、クライアントに名指しで「山口に来てほしい」と言われます。僕にとっては当たり前のことで、「こんなことは誰がどう見てもすぐにわかるだろう」と思っているのに、評価される。僕の強みは「クリエイティブなアイデアを生み出すこと」ではなく「複雑な問題を整理・構造化すること」にあるというのがわかったんです。それで経営コンサルティングのキャリアへ転換することになりました。憧れの気持ちがあるとなかなか難しいのですが、「これが自分なんだ」と自己受容することが大切であることを学びました。
――経営コンサルティングの世界に移ってからは、すぐに強みが発揮されたのでしょうか。
山口:コンサルティング会社に移ったら移ったで、スターコンサルタントがたくさんいますからね。最初は憧れのコンサルタントを真似しようとするわけですが、やはり「こうなりたい」という憧れと、自分が評価されるポイントは違います。そこでも自己受容が必要でした。自己受容ができていなければ、いまの自分にはなっていなかっただろうと思います。
しなやかな姿勢で、想定外の機会や状況変化に応じて計画・戦略を修正していくことを『人生の経営戦略』の中で「適応戦略」として紹介しています。
フィードバックを意識する
――どうすれば憧れから切り離して自分の強みを認められるようになるのでしょうか。
山口:フィードバックを意識することです。
同じ職場の人に「私の強みは何だと思いますか?」と聞いてみるといいと思います。部署や職場が変わったのなら、前の部署の人にも聞いてみてください。きっといろいろないい意見が聞けるでしょう。
僕は電通に7年ほどいましたが、前半は空回りしていて評価されず、とても苦労しました。その頃に先輩に言われたことをいまもよく覚えています。
「山口は自分らしくないことをしているから、うまくいかなくて当たり前だ。もっと自分らしさを出したほうがいいよ」。
たとえば歴史の知識や哲学、心理学をプロジェクトに結び付けて考えたり、クライアントにアドバイスしたりするのが自分らしかったのですが、当時はそう言われても全然わかりませんでした。
「この人、何を言っているのかな? 俺は見積もりをちゃんと書けるようになりたいんだ」という感じで、無視しちゃっていました。
ですから、フィードバックをもらってもわかるまでに時間がかかることもあると思います。でもやはり自分の強みや弱みは周りの人がよくわかっていることが多いので、「聞いてみる」のが一つの手だと思いますね。
(※この記事は『人生の経営戦略』を元にした書き下ろしです。)