「仕事をしている感」だけの取材

 これは金融の仕事でも似たようなことがあります。資産運用の世界ではアナリストという職業があり、企業を分析して業績や信用力を予想する仕事です。この職業も伝統的には取材が非常に重要だと言われてきました。決算発表後の記者会見や株主総会、投資家向けの説明会に出席したり、企業の役員と1対1のミーティングを行って情報を集めるのがアナリストの重要な業務だとされてきました。

 しかし、よく考えてみてください。決算発表後の記者会見をはじめ、多くのこうした会合は現在ではオンラインで視聴できるものがほとんどです。しかも、このような公の場で企業経営者が特別な情報を発表するでしょうか。必要な情報はプレスリリースなどでも出ており、こうした場に出向かなければ得られないような情報は、今の時代ほとんどありません。

 そのため、「取材だ取材だ」と言っているアナリストは、ある意味「仕事をしている感」を出したいだけということもあります。1対1で企業の役員、広報担当者、財務担当者と会っても、企業側が資料に沿ってありきたりな説明をし、最後に当たり障りのない質問をして終わるだけです。これでは取材をする意味がありません。

 過去に比べて企業も自ら発信する情報が増えてきていますし、様々な関係者が情報を発信できる社会になり、取材して初めて得られる情報は非常に少なくなってきています。この点はメディアの記者も同様で、取材の中で本当に意味のあるものは非常に少なくなってきているのが実情です。

 したがって、取材をしていると言っている記者の多くは不要なのではないかと私は思いますし、取材をしていても大した記事を書けない結果、今のメディア離れになっているのではないでしょうか。

 現代では様々な人が情報を発信できるようになり、改めて取材をするよりも、すでに出ている情報をまとめるだけでも膨大な情報になる場合もあります。そのため、「利上げに名前をつける」といった意味不明な取材をするくらいなら、すでに出ている情報をまとめた方がよほど読者のニーズに応えられることもあります。これも社会の変化の中で起きていることだと思います。

 だからといって取材をする意味が全くないとか、取材をする記者が全て不要だとか、そういうことを言っているわけではありません。このような時代だからこそ、本当に意味のある取材ができる記者やアナリストはそこで差別化を図れるのではないでしょうか。