スキャンダリズムが本業のようになってしまった週刊誌や誹謗中傷の温床となったSNSに、世の中の大逆襲が始まる（写真はイメージです） Photo:PIXTA
SNSや週刊誌の未来を予感
『踊りつかれて』はなぜ衝撃的なのか
こんなにメモをとりながら読んだ小説は久しぶりでした。『罪の声』など社会派ミステリーで人気がある塩田武士著の『踊りつかれて』は、SNSと週刊誌の問題に正面から取り組み、意外な展開で問題の解決を予感させる、まさに「予言の書」というべき作品でした。
この1年、ジャニーズ、松本人志、フジテレビおよび中居正広、そして斎藤元彦・兵庫県知事といった問題をめぐるSNS、週刊誌、オールドメディアの関係性がメディアで話題となり、甲論乙駁（こうろんおつばく）、さまざまな議論が出ましたが、私はこの小説を読んで、暗い空に一条の光が射した思いを得ました。
読後感は爽快でさえありました。小説の本筋とは違う解釈かもしれませんが、今回は私が元週刊誌編集長として感じたことを詳しくご紹介したいと思います。
ネタバレにならない範囲で、小説の一部を紹介します。あるお笑い芸人が不倫スキャンダルで自殺しました。そして、世代を超えて人気のある女性歌手が、週刊誌記者に向かって放った暴言をすべて雑誌に明らかにされ、芸能界から消えました。その事件を誰もが忘れつつあるとき、記者とSNS投稿者を突然、とんでもない災厄が襲ってきたのです。
それは、「枯葉」と名乗るサイト。「宣戦布告」という挑戦的な文章のあとに、執筆した週刊誌記者と中傷したSNSの投稿者83人の名前と住所に加え、年齢、勤務先、その他個人情報（家族も含め）、そしてSNSのアカウントやメールアドレスなど、あらゆることがネット上に公開されていたのです。
世間は大混乱に陥りました。なにしろ、攻撃的なSNS投稿者と週刊誌記者83人に対して、彼らが普段第三者に対して行っていることと、同じ被害をもたらそうとする企みだったからです。83人の中には、会社を辞める人、クビになる人、失踪する人などが続出しました。「枯葉」氏の「宣戦布告」の文章には、元週刊誌記者である私も共感したり、反省したりする言葉が多々ありました。
「普段は世の中の端の方に追いやられている極端に潔癖で極端に下品な奴らがどういう訳かネットの世界では大手を振って花道を歩いている」
「極左と極右は同じだ。つまり潔癖は下品ってこった」
「なぁ、わけわかってないのに口挟むなよ。ちょっと検索したぐらいで裁判官気分のお前らに、世の中が見えている訳がねえだろう」
「本当に深刻なら今すぐ専門家のところに駆け込め。ネットの百倍頼りになるから。ネットの百倍安全だから」
