価値のある情報は独占される
そこで問題になるのが、時間をかけた取材を行うためにはお金がかかるということです。新聞の発行部数がどんどん減少し、財務基盤が弱くなっていくと、取材にかける費用が乏しくなっていきます。一方、インフルエンサーはというと、大体個人事業主か小規模なビジネスとしてやっているケースが多く、取材にかけられる費用は限られています。
私の場合で言うと、世界経済の情報を発信していますが、アルゼンチンで取材して次にニュージーランドに行き、その次は中東に行くというのは現実的に不可能です。
したがって、インフルエンサーがある程度社会で影響力を持つ中で、インフルエンサーが取材などに十分な費用を割けるよう、ある程度収益を稼ぐことができる仕組みが出来上がっていくことが重要だろうと思います。
そういう意味で、日本でもYouTubeのメンバーシップやニコニコチャンネルなど様々なサービスがあり、私も利用していますが、これまで新聞に払っていたお金がそうしたところに流れていくかというと、おそらく一部でしかないでしょう。そのため、流れとしては情報の質が下がる方向に向かっていると言えるでしょう。
ただし、だからといって世の中に価値のある情報が全く流れていないかというと、そういうことではありません。
再び金融業界を例にお話しすると、非常に優秀なアナリストがいたとします。取材をしながら集めた情報を元に企業業績について的確な予測ができ、差別化を図れます。そういう人はすぐにヘッジファンドなど様々な組織からヘッドハンティングの話が来ます。その人が持つ情報がお金になるのであれば、高い給料を払ってその人を囲い込み、情報を独占したいと考える人たちが大勢いるのです。
そのため、アナリストにも非常に優秀な人たちがいますし、ヘッジファンドや銀行、商社、コンサルタント会社にも非常に優秀で差別化できる情報を持っている人たちがいます。しかし、そうした人々はほとんど表に出てきません。
つまり、本当に価値のある情報というのはメディアからはほとんど発信されなくなっている一方で、一部の人たちが独占しているのです。
私の知り合いのヘッジファンド創業者は、ウクライナ戦争が始まる前から、軍事関連の情報を持っているシンクタンクや、少し怪しい情報屋のようなところまで接触して情報を得ようとしていました。それで軍事進行を予想できたかどうかはわかりませんが、情報格差が大きくなってきているように思います。
結論として、表面上の取材をしているかどうかということが問題ではなく、ちゃんと価値のある情報が伝わっているかが問題なのだと思います。
そういう意味では、オールドメディア対SNSの構図の中で、世の中に出てくる情報の質は下がってきている可能性がある一方で、価値のある情報は一部の機関が抱え込んでいます。このような情報格差が広がっている可能性があるでしょう。
(本稿は『日本人だけが知らない世界経済の真実』を一部抜粋、構成したものです)
元機関投資家/ファンドマネージャー
資産運用会社等で20年以上、債券・為替・株式・デリバティブ等の資産運用関連業務に携わったのち独立。世界の経済ニュースを伝える「【世界経済情報】モハPチャンネル」を2021年からYouTubeで配信し始め、金融知識がなくてもサクッとわかりやすい解説が好評を博す。2025年5月現在、登録者数は22万人超、公開動画は1000本超、総視聴数7000万回を突破。「速さ・中立性・わかりやすさ」を信条に、世界各国のマクロ経済・金融政策をリアルタイムで分析。難解な指標を噛み砕く語り口と、元機関投資家ならではの視点が個人投資家・経営者・政策関係者から高く支持される。本書が初の著書となる。
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