
東京国立博物館平成館で9月21日まで開催されている特別展「江戸☆大奥」が実に面白い。華美で秘密めいた印象の強い大奥を、実際の資料や絵画、衣装などによって実像に迫る展示・構成だ。この夏、必見の展覧会として推しておこう。(コラムニスト 坪井賢一)
>>前編『この夏に絶対行きたい!特別展「江戸☆大奥」の見どころ解説【
見ているだけでクラクラする
豪華絢爛な展示の数々
江戸城内に実在した徳川将軍の後宮である「大奥」の歴史を立体的に描いた初めての展覧会、特別展「江戸大奥」。7月の猛暑日に大汗をかいて出向いたが、そのかいがあった。全ての展示が興味深く、文字通り目が釘付けになった。
31枚に及ぶ重要文化財の刺繍掛袱紗(ししゅうかけふくさ)も初めて見た。精緻な刺繍が施された袱紗で、徳川綱吉(1646~1709)が側室のお伝の方(瑞春院1658~1738)に贈ったとされる。元禄期を代表する刺繍技術の、粋を見ることができる。
袱紗とは贈答品や金品を包む布のことだが、綱吉がオーダーした袱紗は、江戸城の年中行事のたびに綱吉からお伝の方への贈答品に掛けられたもの。見ているだけでクラクラする豪奢な袱紗の数々だ。

史料として価値の高い物品や記録も展示されていた。1714年の絵島生島事件は、大奥の大幹部である「御年寄」の絵島(1681~1741)と歌舞伎役者の生島新五郎(1671~1743)のスキャンダルで起きた綱紀粛正事件で、絵島は高遠藩へ流刑、生島は三宅島へ遠島となった。現在まで演劇、映画、歌舞伎の題材として取り上げられる有名な事件だ。
その絵島の流刑後の食事の内容など、生活誌がつづられている「絵島没後取調覚書」は、没後に高遠藩から幕府へ提出されたものだそうだ。よく残っていたものである。
さらに、最後の将軍付き「御年寄」瀧山(1805~76)が使用していた「女乗物」が展示されている。女乗物とは庶民の「駕籠」と機能は同じだが、より高級で女性専用のもの。
瀧山は、大政奉還後に現在の埼玉県川口市へ移住した。没後は、将軍が日光へ参じる際に立ち寄っていた川口市の錫杖寺に墓所が設けられ、この女乗物も錫杖寺に寄進されている。なお、瀧山の遺品である自筆日記、かんざし、くし、守刀(まもりがたな)、厨子なども展示されている。

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