共通の敵を失った同盟の脆さ
三頭政治の成功は、皮肉にもその崩壊の引き金となりました。なぜなら、彼らを結びつけていた最大の要因は「元老院」という共通の敵の存在だったからです。
一度その障害を乗り越え、それぞれの目的を達成してしまうと、彼らの間には協力関係を維持するための強力な動機が見当たらなくなりました。
これは現代のビジネスアライアンスにも通じる教訓です。特定の市場や競合他社に対抗するために結ばれたパートナーシップは、その目的が達成されると途端に緊張感を失い、内部の利害対立が表面化しがちです。
リーダーは、目先の利益だけでなく、その先の共通ビジョンを描けているか常に自問自答せねばなりません。
パワーバランスの崩壊と「嫉妬」という名の亀裂
同盟の崩壊を決定づけたのは、三者のパワーバランスの変化でした。バランサー役を担っていたクラッススが戦死すると、均衡は一気に崩れます。
カエサルがガリア遠征で圧倒的な武功と名声を獲得する一方で、ローマに残ったポンペイウスは次第にカエサルの影響力に嫉妬と脅威を覚え、かつての敵であった元老院に接近していきます。
組織やチームにおいて、特定の個人の成功が全体の調和を乱すことは珍しくありません。一人のスタープレイヤーの台頭が、他のメンバーの嫉妬や警戒心を生み、協力体制に亀裂を入れるのです。
優れたリーダーは、個人の功績を正当に評価しつつも、組織全体のバランスに常に気を配り、不協和音の芽を早期に摘み取る洞察力が求められます。
リーダーが歴史から学ぶべき「同盟の原則」
カエサルたちの物語は、私たちに極めて重要な示唆を与えてくれます。それは、利害のみで結ばれた関係は、状況の変化によって容易に瓦解するという普遍的な原則です。
ビジネスにおける提携や協業も同様です。短期的な利益(Win-Win)の追求はもちろん重要ですが、それ以上に、長期的なビジョンや理念、価値観の共有がなければ、真に強固なパートナーシップを築くことはできません。
共通の敵がいなくなった後も、共に目指すべき「北極星」はあるのか。成功の果実を分かち合った後、次なるステージを共に描けているのか。
この古代ローマの権力闘争は、単なる歴史の一幕ではありません。変化の激しい現代を生き抜くリーダーにとって、人間関係の本質と組織力学の要諦を学ぶための、またとないケーススタディなのです。
※本稿は『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。