「勝負から降りる」選択肢もある
――仕事や勉強など競争要素が入ってくる、「勝たなきゃ意味がない」「数字を出さなきゃダメ」と自分自身を追いつめてしまう場面が多いですよね。
さわ:もし本当につらいと感じているなら、「その勝負から降りる」という選択肢があってもいいと思うんです。偏差値や売上は、あくまで人生の一部分でしかなく、それで自分の価値が決まるわけではありません。
――でも現実には、「やめたら負け」と思ってしまう人も多い気がします。
さわ:やりたいことだったら、人は「なんとかうまくいくやり方はないかな」と考えます。でも、「やらなきゃいけないから」と義務感だけで走っていると、いつかエネルギー切れを起こしてしまいます。
――無理を続けるうちに、「もう全部やめたい!」と思う瞬間が来てしまうんですね。
さわ:そうですね。たとえば本書には、「本当に嫌になったときは、いつでも辞めていいのよ。放り出したい気持ちになるってことは数えきれないほどつらいことがあったということだから。」(p.63)という言葉があります。私も本当にその通りだと思っていて、限界を迎える前に、一度立ち止まって距離をとることはとても大切だと感じています。
どうせ比べるなら、他人ではなく、「過去の自分」と比べる
――ただ、現実には「すぐにやめられない」という状況もありますよね。こうした状況を前向きに捉えられる考え方はありますか?
さわ:人が一番成長できるのは、「少しだけ難しいこと」に取り組んでいるときなんです。難しすぎると途中で諦めてしまうし、簡単すぎるとすぐに飽きてしまう。だからこそ、少し背伸びするくらいがちょうどいいんです。
だからこそ、他人と比べそうになったときは、「他人」とではなく、「過去の自分」と比べてみてください。
昨日や1週間前、1年前の自分と比べて少しでも前に進んでいれば、それだけで十分に成長しています。売上や成績がどうであれ、自分なりに積み重ねてきたものがあれば、結果はちゃんとあとからついてきますよ。
――たしかに、そう思えるだけで少し気が楽になりますね。
さわ:焦ったり落ち込んだりしているときって、自分に優しくするのがいちばん難しいんですよね。そんなときに、自分を責めすぎないためのヒントをくれるのが『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』です。自分の生き方のペースが早すぎると感じたときは、ぜひ読んでみるといい一冊だと思います。
(本稿は『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に関する書き下ろし特別投稿です)
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師
1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(以上、日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。