「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。
この記事では、本書の内容に関するインタビューを掲載します。(構成:小川晶子)

幸せってけっこうつまらない

――今の職場での仕事は順調だけれども、なんとなく先が見えてしまってワクワクしない、かといって安定した生活を捨てて転職や起業にチャレンジするのも怖いという悩みに対しては、山口さんはどう答えられますか?

山口周氏(以下、山口):最初にお伝えしておきたいのは、「幸せってけっこうつまらない」ということです。冒険はロマンがあり、危険もあって、下手をすれば怪我をしたり死んでしまったりします。幸せな状態がつまらないというのは、人生最大のジレンマかもしれませんね。

――なるほど……。ハラハラドキドキの冒険は怖いけれどうらやましいというような。「自分はこんなもんじゃないのではないか、もっと成長できるんじゃないか」という気持ちもあるかもしれません。

山口今の仕事か起業かという二者択一ではなく、今の仕事を続けながらやりたいことを何でもやってみたらいいと思います。

僕の知り合いは、あるコンサルティング会社でマネージャーとして活躍しながら、個人でイタリア食材をインターネット販売するビジネスをしています。彼はイタリアが大好きで、毎年休みをとってイタリア旅行に行くのが楽しみなんですよ。イタリア旅行中に美味しいワインやチーズなどを見つけると、それを自分のウェブサイトで紹介して販売するというかたちでやっています。それがイタリアンレストラン御用達になって、いまではこちらの収入のほうが多いくらいです。

彼にとって、安定的に給料がもらえてやりがいのあるコンサルティングの仕事と、不安定ではあるけれども楽しいイタリア食材販売の両方が重要なんですね。会社の仕事があるから、個人の仕事も楽しめる。その逆も然りです。

リスクとリターンの性質の違うものを組み合せる

――組み合せによって、目の前の仕事、生活の意味合いも変わってきそうですね。

山口:複数の仕事を組み合せる際には、リスクとリターンの性質が違うものを組み合せると良いでしょう。「安定的だけれども大化けするリスクのない仕事」と「不安定だけれども大化けするリスクのある仕事」を組み合せるということです。

リスクというと、下方にぶれるリスクばかり考えがちですが、同時に上側にぶれるリスクもあります。リスクのそもそもの意味は「不確実性」ですから。

大型の投資や起業の際にほとんどの人が気にするのはダウンサイドリスクですよね。でも、ダウンサイドリスクがほとんどなく、アップサイドリスクが大きいものだってあるんです。

――たとえばどのようなものでしょうか?

山口:わかりやすいところで言えば、ピコ太郎さんはPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)で大ブレイクしましたよね。YouTubeに動画をアップするのはダウンサイドリスクがほとんどありません。動画編集に使った時間や機材くらいのものでしょう。その一方、世界中で動画が見られるようになったら億単位の収入が入ってくる可能性があるわけです。

仕事のポートフォリオを考える

山口:「ポートフォリオ」という言葉は、企業経営の世界では主に「投資や取り組みの集合体」という意味で使われています。適切なポートフォリオを持つことで、リスクとリターンのバランスを最適化することを目指すのです。人生の経営戦略においても同じ考え方ができます。

私自身のポートフォリオは、こんな感じです。30代と40代で、ガラッと変えました。

ポートフォリオ

2009年に『終の住処』で芥川賞を受賞した磯﨑憲一郎さんは、三井物産で管理職をしながら趣味で小説を書いていました。今は退職して大学教授になられていますが、作家デビューしてからもしばらく三井物産に勤務を続けていたんです。三井物産の管理職といえば、世界でもっともリスクの低い仕事の一つでしょう。

文筆業のほうは非常にリスクが高いです。これらを組み合わせたことで、ポートフォリオに幅が出るのです。

――ポートフォリオの観点からすれば、今の仕事と新しい仕事、どっちを取るか?という話ではないわけですね。

山口:どう組み合わせるかです。安定した仕事があるから、リスクも取れるという場合がありますから。アインシュタインも特許庁の役人をしながら、余暇を使って理論物理の論文を書き、それによってノーベル賞を受賞しました。安定した仕事があったから、あれだけのクリエイティビティが発揮できたのかもしれません。

(※この記事は『人生の経営戦略』を元にした書き下ろしです。)