また、野球・相撲・ボクシングなどのスポーツも大半の人はタバコを吸いながら観戦しており、後方の席からはグラウンドや土俵、リングが霞かすんでみえることも多かった。中元・歳暮などの贈答品としても人気で、「全国共通たばこ券」というものもあった。
体に悪いなんて思いもせず
男性性の象徴でもあった
タバコは、ドラマ・映画に登場する男性もほとんどが吸っており、これにより心情や時間の経過が表現されることも多かった。例えば、デートの待ち合わせでイライラしている男の足元には、よく吸い殻が散らばっていたし、刑事ドラマでも、捜査が難航している時のボス刑事の灰皿では吸い殻が山のようになっていた。
刑事ドラマでは、張り込みを行う場面でも決まって新米刑事と一緒にいるベテラン刑事はタバコを吸っており、アパートから犯人が出てきて追いかけ始める際には、「行くぞ!」といいながら指で弾いて捨てたりしていた。
また、タバコは男性性の象徴であり、昭和後期になると「キャリアウーマン」を示す記号としても多用された。雑誌で「男性ばりに働く女性」を撮影する際には、それっぽい雰囲気を演出する小道具として用いられており、掲載された後で「本当は吸えないのに持たされた」といっている女性も時おり見受けられた。
なお、禁煙が広がり始めたのは同じく昭和後期からで、それまで世の人々はタバコがそんなに体に悪いものとは思っていなかった。ましてや周囲の他人にまで害を及ぼす(受動喫煙)などとは考えてもおらず、遠慮するという発想自体がほぼなかったのである。
1978(昭和53)年に市民団体が「嫌煙権」という造語を提唱し、1984(昭和59)年には「禁煙パイポ」がヒット商品になるなど、昭和後期から徐々にそうした動きは広がり始めていたが、本格的にニュースなどで取り上げられ、社会一般で認識されるようになったのは1989(昭和64/平成元)年のことである。
この年、アパートやマンションのベランダでタバコを吸う「ホタル族」が流行語になったあたりから風向きが変わり、以後はパッケージに警告表示、「健康増進法」の制定、TV・ラジオCMの全面禁止など、タバコに対する規制がどんどん強化されていった。