指令所と運転士の間で
発生した2つの認識の錯誤

 時系列に沿って見ていこう。当日は午前10時44分頃、東急東横線妙蓮寺~白楽間の踏切内で自動車が立ち往生した影響で、遅れと一部列車に運休が発生し、副都心線内に波及した。東横線から進入する列車が運休したため、指令所は副都心線内の列車を1本ずつ繰り上げて、運休した列車の穴を埋める「運転整理」を行った。

 指令所は運行管理装置で、当該列車は「急行」から「各駅停車」、後続列車は「各駅停車」から「急行」に変更したが、各列車への変更の通知が明確になされなかった。そのため当該列車の運転士は「急行」、後続列車の運転士は「各駅停車」の認識のまま渋谷駅を発車。指令所と運転士の認識に齟齬(そご)が発生した。

 副都心線のATO(自動列車運転装置)は運転士の種別設定に従って運転するため、当該列車は途中、北参道駅を通過する急行運転、後続列車は各駅停車として、運転士の認識通り走行したが、2つのホームを持つ東新宿駅で問題が発生する。

 同駅の和光市方面行きホームは急行列車が通過する3番線と各駅停車が待避する4番線がある。運行管理装置上のダイヤでは、各駅停車に変更された当該列車が4番線に停車し、急行に変更された後続列車が3番線を通過することになっていた。

 そのため駅手前のポイントは4番線に入る側に向いており、4番線に列車が到着次第、後続列車を3番線に入れるため転換する。こうして「急行」のつもりの当該列車が4番線に停止、「各駅停車」のつもりの後続列車が通過線の3番線に停車する事態となった。

 東新宿駅出発後のポイントは先発する3番線側に切り替わっているため、4番線側に転換するまで停止信号を現示する。ATOはATCの制御に従って運転するため、急行の設定で走行する当該列車も4番線で自動的に停止したが、「急行」と認識している当該列車の運転士は、急行なのにATCが作動し、ホーム途中で停止してしまったことを不思議に思い、指令所に連絡した。

 ここで第二の錯誤が発生する。運転士が変更前の列車番号を申告したところ、指令所は変更後の列車であると誤認してしまった。そこで指令所は「3番線に停車中の急行」が、一時的な送受信不良でATCが作動したと判断し、復旧に向けた対応にとりかかった。