この説明によれば、絞首刑が残虐な刑罰に当たらないとする理由として(1)意識が瞬間的に失われ、(2)見た目上も屍体に損傷が生じず、(3)被執行者に最も苦痛のない安楽な死に方であって、(4)執行者にとっても残虐感が残らないためだとされています。

 この古畑鑑定をもとに、絞首刑は残虐な刑罰に当たらないとした判断が1955年に最高裁から出されています。これ以後に絞首刑による死刑執行が残虐な刑罰に当たるかどうかを医学的に説明する鑑定は存在せず、70年以上経たっても同じ鑑定がその根拠とされています。

 古畑鑑定がかなり古いために、今は残虐と考えられるべきであり、即刻死刑を廃止すべきであると言っているのではありません。

 しかし、死刑賛成派であっても最新の医学や科学をもって絞首刑が残虐な刑罰に当たらないと証明する責任は負っているのではないでしょうか。あらゆる情報が非公開のままにされていることは、死刑反対派のみならず、賛成派の人にとっても大問題であると考える必要があります。テキトーな死刑の運用は許されず、現在の科学的な検証によった場合に、残虐な刑罰だとしたら憲法違反になるからです。(編集部注/日本国憲法36条では「残虐な刑罰」を禁じており、死刑もその内容や方法によっては違憲と判断される可能性がある。)

残虐性を見直すきっかけとなった
「此花パチンコ店放火事件」

 絞首刑の死刑執行が憲法に言う「残虐な刑罰」に当たるかどうかの司法判断は70年以上変わっていません。しかし、注目すべき裁判が2011年に大阪で行われています。それは、いわゆる「此花パチンコ店放火事件」(大阪地裁平成23年10月31日)での弁護側の証人とその証言でした。

 日本では、2009年5月から裁判員裁判制度が始まり、裁判員裁判に該当する事件であり、かつ被害者が複数亡くなっている事件であったために、市民が死刑を判断する可能性が高かったのです。この事件で、担当の弁護団は改めて死刑が残虐な刑罰に当たるのではないかということを裁判員として参加する市民にも考えてもらいたいという思いも持っていたようです。