では(4)以外では苦痛を伴うことがないのでしょうか。(1)は正確に首にある4本の血管の血流を完全に止めることが仮にできたとしても、圧迫から5秒から8秒間は意識があり、古畑鑑定がいう「瞬間的に意識を失う」が誤りであることになります。それも正確に血管を押さえられたらという場合であって、前後左右にズレたとすると脳に酸素が配給され、被執行者の意識は長時間にわたり保たれ続けることになります。

 次に(2)はいわば息を止めている状態であって、実際に息を少し止めてみればわかりますが、ただちに意識を失うということはありません。通常人でも1分から2分、訓練をしている人であれば5分程度は意識が保たれ続けることになります。

(3)のような頭部と胴体の離断であっても意識がすぐに失われないことが指摘されていますが、そもそも古畑鑑定のいう「見た目上にも損傷が生じず」と「執行者にとっても残虐感が残らない」には抵触するのではないでしょうか。

 そして、(5)においても瞬間的に意識を失うどころか約10秒から12秒ほどは意識があり、その直後に心停止をきたすような迷走神経に対する刺激はほとんど起こらず、その間は苦痛を感じ続けることが指摘されました。

 繰り返しますが、ラブル博士の証言で重要なことは、絞首刑によって死に至る機序は(1)が最も可能性が高く、古畑鑑定のいうものは4番目であって、さらにどの原因により死に至るかは事前に選択できないという問題があります。