ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

【そりゃ太らないわけだ】「食べる量」よりパリジェンヌが大切にしている食事のルールとは?Photo: Adobe Stock

パリジェンヌのランチに驚かされた私

 外でランチをたくさんするようになってから、私が気付いたことがありました。それはお昼ごはんを簡単に済ませる人があまりいないことです。女性にしろ、男性にしろ、そして年齢に関係なく、ランチ・タイムでも前菜、メイン、そしてデザートのコース料理を注文します。私など「カロリー・オーバーなのではないか」などと心配してしまうわけです。

 そのことをある日ランチの最中に漏らすと、プリプリしながらこう言う人がありました。

「疲れている時はきちんと食べなきゃダメって言ったでしょ!」

 私が相変わらずカロリーを気にしていることに呆れているソフィアです。彼女の言う通り、私は疲れてお腹が空いていました。フランスのランチ・タイムは13時を過ぎないと始まらないため、着席する頃にはお腹がペコペコなのです。

 反省した私はとりあえずお腹を満たそうとパンに手を伸ばしました。すると、すかさず「待った」がかかりました。

「メインが出てくるまでパンはダメよ」

 ソフィアがそう言うのです。

 その時ソフィアは前菜にポワロー葱のヴィネグレット・ソース、メインにタルタルステーキを注文していました。そしてパンに手をつけたのは文字通り、メイン料理が出てきてから。ソースを拭うためにたったの1~2切れ食べただけでした。

血糖値と「食べる順番」の関係

 そういえば、サンドイッチなどで食事を済ませる時は別にして、パンはお米のように「主食」という扱いを受けていません。フランス人というと、バゲットを片手に歩いているイメージが湧くかもしれませんが、パンは食事の時につまむ程度です。フランス料理ではパンはあくまでも「副食」、つまり補佐役なのです。

 それにしてもなぜソフィアは「メインが出てくるまでパンに手をつけない」のでしょう。その時はそのことをあまり気に留めていなかった私ですが、最近になってその謎が解けました。それは実は、ものすごく的を得た食べ方だったのです。

『Glucose Revolution』(日本語訳タイトル『人生が変わる 血糖値コントロール大全』かんき出版刊)という本がフランスでベストセラーに輝いたのは2022年のことです。フランス人の生化学者である筆者のジェシー・インチャウスペ氏は、自ら血糖測定器(グルコース・モニター)を開発し、エビデンスをもとに血糖値スパイクと体調不良の関係性を説いた強者です。

 本の内容を要約すると、血糖値の変動の幅が小さいほど、健康になることができるというものです。更には、血糖値が急に上がると、脳は血糖値を下げるべく多くのインスリンを分泌させるため、脂肪をためやすくなり、結果的には太りやすい体型になってしまうというのです。

 私が驚いてしまったのは、筆者の「食べる順番に気をつけよ」というくだりでした。ひとことで説明すれば、「まずは野菜、次にタンパク質や良性の脂肪、最後に炭水化物を取る」ことが血糖値スパイクを防ぐ、最良の食べ方だというのです

痩せるよりも「体調を整える」ために

 思い起こせば、ソフィアは前菜にはなるべく野菜を取り、メインはお肉やお魚などのタンパク質を取り入れていました。そしてお腹がある程度満たされた頃になってやっとパンに手を伸ばしていました。

 ソフィアのランチ・パターンはまさに、血糖値の上昇を緩やかにする食べ方、そして太りにくい食べ方だったのです。食べてもちっとも太らないソフィアは、食べる量よりも、食べる順番を気にしていたのです

 最近再会したソフィアにそのことを言うと、彼女は、

「そこまで意識して食べていたわけではない」

 と笑っていました。そして、

「別に太らないためにそういう食べ方をしていたわけではない」

 と真っ向から否定してきました。「メインが出てくるまでパンは食べるな」という教えは、医者である彼女の父親のものだと言います。

 その父親がよくソフィアに、

「お腹が空いている時に炭水化物から先に取り入れると、眠気や頭痛など、仕事に支障をきたす症状を起こす可能性がある」

 と言い聞かせていたそうです。

 ジェシー・インチャウスペ氏によると、血糖値スパイクはそれだけではなく、「ニキビなどの肌荒れ、更には更年期障害、糖尿病や認知症といった疾患の原因にもなり得る」ということですから、ソフィアのお父さんの助言は非常に的を得ていたということになります。

 血糖値スパイクを防ぐ食べ方が「痩せる」かといえば、私もちょっと語弊があるような気がします。ソフィアが、そして多くのパリジェンヌが無意識に実践しているこの「食べる順番」は、「痩せること」よりも「体調不良を防ぐこと」に有効な手段なのではないでしょうか

 そしてそれこそが、ダイエットが嫌いなパリジェンヌが日頃から気を付けていることなのです。