かつてサンリオが出版部門を立ち上げた理由

「妻夫木聡さんが出てくれるなら…」中園ミホが設定を変えた!サンリオ創業者の評価に納得しかない【あんぱん第107回】

「売れるものを見抜く才能がある」と健太郎は八木の嗅覚に感心する。その八木が、嵩の詩の才能を見抜き、詩を書くように言う。

 漫画を描かなくていいのかとのぶは相変わらず心配するが、漫画を描くように詩が沸いてくると嵩は
新たなフェーズに入ったようだ。
 
 亡くなった父・清(二宮和也)、育ててくれた叔父・寛(竹野内豊)や叔母・千代子(戸田菜穂)、大切な弟・千尋(中沢元紀)、ヤムさん(阿部サダヲ)……これまで出会った人たちが、嵩に詩を書かせている。当然、そこにはのぶも存在している。まぶたの裏にはいつものぶがいる。

 嵩が書いた詩を読んだ八木は、突如、出版部門を立ち上げることにする。その最初の作品は柳井嵩の詩集。戦争を体験した自分たちは人を幸せにすることで、そのためには優しさや思い入れの気持ちを伝えることだと八木は考えていて、嵩の詩はまさにそれができるものだと太鼓判を押す。

「愛することがうれしいんだもん」

 嵩はたくさんの人たちと触れ合いあふれだす言葉を詩に書く。

 八木は「これはすばらしい叙情詩だ」「メルヘンだ」と絶賛。そして今度は自費出版ではなく、商業ベースの嵩の詩集『愛する歌』が発売された。このタイトルを八木に伝えるとき、『手のひらを太陽に』のアレンジ曲が柔らかく流れていた。嵩の作品にはどれも生きることや愛する喜びが詰まっている。

 八木のモデルの辻信太郎も自社で出版部門を作っている。

 彼の著書『これがサンリオの秘密です』によると、出版部門の立ち上げは1967年。きっかけはやなせたかしに、コップや茶碗につけるキャラクターの絵を頼みにいったとき、やなせからガリ版刷りの詩集を見せられたことだった。

「すごいよ、先生、これが叙情詩だ」と言って出版を提案したという。

 八木のほめ言葉「叙情詩」はまんま辻の言葉であった。ただ、辻は昭和2年生まれ。やなせは大正8年生まれ。実際は辻のほうが年下だ。

 本は好きでも出版のイロハを知らない辻だったが、ガッツで売って回って、結果、この手の本(詩集)としては売れた。次に出版したのはサトウハチローの作品『美しきためいき』だった。

 辻が目指したのは「本を贈る」という行為。「ギフトブックシリーズ」と銘打って、やなせの『愛する歌』とサトウの『美しきためいき』の2冊でそのコンセプトを軌道に乗せた。