八木と蘭子の関係が急接近

蘭子(河合優実)は八木の会社で事務仕事を手伝っていた。新鋭と注目されていたとしてもフリーライターだけで生活するのはなかなか大変なのであろう。ちなみに史実では、やなせたかしが映画評論の仕事もしていた。ドラマではそこを蘭子に振り分けているようだ。
蘭子が八木の会社で仕事をしていると、子どもたちが遊びに来た。手作りのカードを携えて。八木は子どもたちをギュッと抱きしめる。
蘭子は、八木にいつもそうしているのかとたずねる。
人間に必要なもののひとつに「人の体温」があると八木は説く。孤児たちは親からの無条件の愛情を知らない。代わりに八木が抱きしめているのだ。
蘭子「そういう八木さんを誰か抱き締めてくれる人は……」
八木「いや…俺は…」
蘭子「すみません 変なこと聞いて。失礼します」
蘭子は部屋を出ると、なんてことを言ってしまったのかというように困惑した顔になる。夕方の明かりと相まって妙に湿度の高い場面で、『あんぱん』と違うドラマが始まったのかと思った。向田邦子ドラマのような……。
中園はインタビューでこう語っていた。
「蘭子と豪ちゃんがあまりにも人気で、豪に生きて帰ってきてほしいと複数の人に言われるほど。俳優さんの演技の素晴らしさがそう思わせているのだと思います。でも蘭子をなんとか幸せにしてあげたいですね」
一生分の恋をしたと言っていた蘭子も長年、ひとりで生きてきて人の体温が欲しくなっているのかもしれない。八木と蘭子は孤独を抱えている者同士、引き合っているように見える。
誰かと一緒にいると元気が出ることは、嵩とのぶが証明している。
「愛することがうれしいんだもん」
詩を書き終えて仲良く腕を組んで銭湯に向かうふたりの影が建物の壁に大きく伸びる。それもまた詩のようだった。
第107回は、アパートの2階から階下が映る。これまで平坦だった画が急に立体化したのは、愛によって嵩とのぶの世界が広がった表現だろうか。
見方を変えれば、すてきなところはいくらでも見つかる。屋根、階段、塀、植わっている木に太陽光が注ぎ、光っている。あじさいが咲き、カエルが鳴く。立てかけたはしごまでが愛おしく見える。みんなみんなセットだって生きてるんだ。