
嵩の愛の詩が彩る ママ・メイコの悩み
夏休み、子どもたちは福岡に遊びに行っている。夫婦水入らずのチャンスだが、あいにく健太郎(高橋文哉)は仕事が忙しい。メイコは手持ち無沙汰で、のぶ(今田美桜)の家に遊びに来ている。
そこへ電話がかかってきて、嵩の『愛の詩集』が重版したという。のぶは大喜び。
「こんなにわかりやすくて素敵な詩はないもの」
「わかりやすい」は、ともすれば褒めていない印象ももたらすが、ここでは褒め言葉。嵩のモデル・やなせたかしの作品の特徴を端的にあらわしているのがこの「わかりやすさ」である。
「大人も子どもも声に出して読みとうなる詩やき」とのぶが嵩を褒めているのを見て、メイコは「いいなあ」と羨む。
健太郎は仕事の話をしてくれないし、子どもが生まれてからは名前を呼んでくれなくなった。
「うちは健太郎さんのママじゃないき」と不満が募る。
そんなメイコとのぶは執筆中の嵩をおいて、向かいの蘭子のアパートへ。三姉妹でメイコの悩み相談だろうか。
蘭子が口紅をしているのを見て、キレイ、恋しているとメイコものぶも感じるが、ローレン・バコールのマネをしただけ。口紅が気に入ったならメイコにあげると蘭子ははぐらかす。
蘭子「メイコ、よろめきドラマのようなことをしたいがかえ?」
メイコ「ちがうちがう」
のぶ「あーーびっくりしたーー」
物事の本質をつく蘭子と、その場の感情を率直に言うのぶ。ふたりの役割はいつもこういう感じである。メイコは末っ子で空気を撹拌する役割というところか。
メイコはよろめきドラマのヒロインに憧れたりはしない。健太郎一筋だ。
おしゃれをして健太郎と街を歩きたいという、ささやかな夢を持っているだけなのだ。
戦時中が彼女の女の子として一番いい時期、おしゃれできなかったことをまだくよくよしているメイコ。戦争が終わって初恋の人と結婚できたけれど、すぐに子どもが生まれて、育児に追われ、おしゃれして無邪気に楽しむ経験がなかった。
メイコの気持ちをのぶは健太郎に伝えるが、彼はとんちんかんなことを言うばかり。
のぶが嵩の詩を見せる。そこにはメイコのような女性の悲しい気持ちが綴られていた。
『えくぼの歌』――
メイコはそれをひとり喫茶店で読んでいた。
「いつもにこにこうれしそうねとみんな言うけれど えくぼのてまえ我慢してるの」
と、そこへ健太郎が現れて……。
「俺、ほんとふうたんぬるか(鈍い)男でごめん」
「泣きたいときは俺の胸で泣いてほしか」
「メイコ きれいだ 一番きれいだ」
歯が浮くようなセリフを連発する健太郎。うれしいメイコ。よく女性の方言萌えというのがあったが、男性の方言萌えもある。
嵩の詩は、誰にもわかってもらえないさみしい人たちの気持ちを代弁している。そして、それはメイコや蘭子のように未だ戦争を引きずっている人たちの心も癒やしていたのだろう。