このご家庭の場合も、シートに書きだした内容をもとに対話を重ねることで客観的に自分を見つめなおすことができて、感情的にならずに話し合えるようになったそうです。受験後、「おかげさまで子どもが行きたかった学校に進学させることができました」と親子一緒に晴れ晴れとした顔でいらっしゃいました。特にお母さまは、自らの価値観を覆すのに時間はかかったものの、秋頃には親子で納得して受験校を決めることができたそうで、受験結果への満足度も高く、親子関係もとてもうまくいっている様子でした。

中学受験を家族で「最高の経験」にするにはなにをすべきか?

中曽根陽子氏顔写真中曽根陽子(なかそね・ようこ)
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリスト/マザークエスト代表  小学館を出産で退職後、女性のネットワークを活かした、編集企画会社を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。最新刊『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社)他著書多数。

 3つのワークシートで明らかにした「受験軸」とは、「何のために受験をするのか」「どう受験をするか」という家庭内での基準のことです。

 中学受験という家族一丸となって取り組むべきプロジェクトにおいて、「受験軸」を家族でしっかりと共有しておくことで、親子関係を悪化させることなく、ブレのない学校選びをすることができます。また、2月の入試が終わった後に、中学受験でどれだけ満足感を得られたか、子どもが自己肯定感を損なうことなく中学に入学できたかという面においても、「受験軸」の有無は大きな影響をおよぼすでしょう。

 どの学校に進学しても「中学受験をやってよかった!」「最高の経験になった」と思えるようにするためには今からでも遅くありませんので、しっかりと親子で話をしてください。

 ご家庭によっていろいろな「受験軸」があるでしょう。途中で方向転換してもよいのです。大事なことは、どの場面においても家族で話し合い、同じ方向へ向かって進んでいけるようにすることです。

 例えば「中高6年間、楽しく目標をもって学んでほしい」という軸があるならば、学校選びの際は子どもの性格に合う校風や学習環境、教育理念を重視することがとりわけ大切であり、偏差値だけでは受験校を選べないことが分かります。

『〈中学受験〉親子で勝ちとる最高の合格』書影『〈中学受験〉親子で勝ちとる最高の合格』 中曽根陽子著 青春出版社刊 1925円(税込)

 もちろん、受験軸の一つに「必ず私立校に通いたい」という希望があるならば、偏差値は重要な指標になることは間違いありません。偏差値の高い学校を目指すあまり、同じ学校のみを受験し続けて、全落ちしてしまったというお子さんもいます。昨今では中学受験自体が大変難しくなっているため、プラス7、下は10を目安に受験校を選んだ方がよいと指導されている塾の先生もいます。受験校の中に偏差値的な意味での「安全校」を入れておくことは、その家庭の受験軸にとっては必須といえます。もちろんその際も、偏差値以外の指標もよく検討したうえで、我が家の「受験軸」にあてはめた学校選びをすることに変わりはありません。

 塾の先生は、志望校に受かるための学習指導をしてくれるプロではありますが、わが子にぴったりの学校を選ぶプロではありません。我が家の「受験軸」に沿った学校選びをするのは各家庭の責任だと認識した上で、今一度、しっかりと学校研究をしていただきたいと思います。

>>次回「【中学受験】『こんなはずじゃなかった』…入学後に後悔しないための「子どもをつぶさない」学校選びとは?」は9月19日に公開予定です。

※本文中の図表はすべて中曽根氏の著書『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社)をもとに編集部で作成