企画業務型裁量労働制が適用される
労働者の割合

裁量労働制の拡大議論が本格化、健康悪化のリスクを下げる、実態検証の仕組みが必要だ

 あらかじめ定められた労働時間に縛られない働き方を求める声が、経営者側から出てきた。経団連は2025年度規制改革要望において、企画業務型と、20の専門業務に認められている専門業務型の裁量労働制の適用職種を拡大するよう求めている。とりわけ、現在では適用される労働者の数が全労働者の0.2%と、シェアが小さい企画業務型の職種拡大の要求が強いといえる。

 裁量労働制は、労働時間と賃金の対応関係を切り離す仕組みである。そのため労働者側は、長時間労働に対して残業代が支払われない恐れが強いとして、適用職種の拡大に反対する声が根強い。

 筆者と早稲田大学の黒田祥子教授、政策研究大学院大学の泉佑太朗准教授、米イェール大学大学院の坪田大河氏による18年の大規模調査に基づく研究では、裁量労働制適用者の週当たり平均労働時間は非適用者より2時間長い45.9時間である一方、年収は非適用者より7.8%高いことを明らかにした。労働時間が長い分、年収も高いという一定のバランスが取れた状態であったといえよう。

 裁量労働制の適用が健康状態を悪化させるという懸念もある。実際、業務の目的・目標・期限、仕事の量、出退勤時間などに関して、実際には裁量が与えられていないにもかかわらず裁量労働制が適用された場合、健康状態が悪化する傾向が確認された。この結果は、裁量労働制の適用範囲を拡大しようとする際には、当該職種で労働者の実質的な裁量がどの程度確保されているかを検証する必要があることを示唆している。

 今後、裁量労働制の適用拡大を議論する際には、実際の労働時間や健康状態の把握が課題になる。だが、長時間労働や健康悪化が顕在化してからでは手遅れになる恐れもある。

 従って、裁量労働制が適用されている労働者が、本当に裁量の余地を持って働いているかを判定する仕組みを導入することも考えるべきだ。筆者らが利用した裁量労働制実態調査では五つの質問項目で労働者が持つ裁量の実態を測定しているので、今後の制度設計の参考になるだろう。

(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)