危機が起きたときに何をすべきか、どういう情報を集めて、どういう形でそれを情報発信するのかという「作業」については、事細かに羅列してあった。しかし、なぜその作業をやらなくてはいけないのかという危機意識、それをやらないとどんなに恐ろしいことが起きるのかを想像させるような説明がほとんどなかったのだ。
こういう危機管理マニュアルの遵守を徹底しているような企業というのは、重大な事故の発生が多い。先ほど申し上げたように、危機というのは、マニュアルに沿っていないから起きるわけではなく「危機意識と想像力が欠如した人」がやらかしてしまうものだ。だから面倒でも効率が悪くても、「現場での教育」や「研修」が必要なのである。
人間はロボットではないので、「マニュアルを守れ!」といくら口酸っぱく言ったところで、100%守ることは不可能だ。この理想と現実のギャップを教育や研修で埋めていくのが、企業の腕の見せ所である。
しかし、はま寿司の「マニュアル遵守を徹底します」という再発防止コメントを見る限り、そういう意識はあまり感じられない。
素晴らしいマニュアルがあることによって、マニュアルを過信してしまっているのだ。
繰り返しになるが、異物混入を招いているのは「人間」である。人の心を動かして、意識を変えることができるのはマニュアルではなく結局、人である。
この「落とし穴」は優秀なマニュアルをもつ企業ほどハマりやすい。異物混入のような問題に悩む企業はぜひ参考にしていただきたい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)
