このような現状の中、社会で働ける年代のことを「生産年齢世代」といいますが、今日では高齢者1人を生産年齢世代2人で支えている計算になっています。
しかし、2038年ごろ、つまり年に200万人以上の出生数があった第二次ベビーブーム世代が高齢者になるころには、なんと1.5人で支えなくてはならなくなるのです。
すなわち、これから生産年齢世代への負担が深刻化していきます。
結果として、社会や経済の衰退が深刻化する可能性も高くなります。その対策を講じることが行政にとって喫緊の課題と言えるでしょう。
年々増加している
一人暮らしの「突然死」
こうして高齢者が増えていくとともに、私たち法医学者も、高齢者のご遺体を取り扱う機会が増えています。
非常勤として勤務している東京都監察医務院では、東京23区内で発生した突然死や事故死などの死因究明を目的として検案と解剖を行なっていますが、その統計でも高齢者の取り扱い率が年々増加していることがわかります。
さらに興味深いのは、2022年の一人暮らしの人の突然死が8762人あり、65歳以上はそのうち6218人で、約71%も占めている点です。
少子高齢化に加えて、核家族化によっても高齢者の一人暮らしは増えてきています。そして、突然死する一人暮らしの高齢者も、年々増加しているのです。
これは何も都心のみで起きている現象ではなく、日本各地で見られる光景です。社会全体で、高齢者の生活支援などの対策を講じる必要があるでしょう。
女性下着を持って
死んでいた高齢男性
ある日、一人暮らしだった高齢男性のご遺体を解剖しました。
その人は女性の下着を手に持ち、顔面や手、外陰部に擦過傷のような傷を負って死亡していました。亡くなった方は独身だったので、女性の下着を持っているのは不自然であり、警察は女性の犯人による殺人被疑事件として解剖を依頼してきました。
ところが、解剖前に擦過傷のような傷を観察すると、すべて生前の傷ではなく、死後に昆虫に噛まれてできたと判断されるものでした。