会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社、8月27日発売)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

「方向づけ」が企業の命運の8割を決める
企業経営にとって、一番大事なことは、「方向づけ」です。「何をやるか、やめるか」を決めることです。
これを誤ると、企業は崖っぷちに向かって進んでいくようなものです。
方向づけが企業の命運の8割を決めると、私は考えています。
方向づけが企業の命運の8割を決めると述べましたが、方向づけの根本は何でしょうか。
これが経営においてとても重要なことですが、それは企業の「目的」です。
目的とは存在意義です。目標ではありません。
なんのために企業を経営しているのかの「目的」を経営者が明確に持ち、働く仲間に共有されていることが企業経営においては、とても重要です。
経営者にとっては「志」です。企業経営の根幹と言ってもいいでしょう。
昭和時代に最も成功した経営者と言える松下幸之助さんは、著書『実践経営哲学』(PHP文庫)の第1項を「まず経営理念を確立すること」とされ、その内容は、目的を明確にすることとあります。
平成で最も成功した経営者である稲盛和夫さんは『経営12カ条』(日経BP 日本経済新聞出版)で、その最初に「事業の目的、意義を明確にする」と書かれています。
大成功する経営者は、「目的」、つまり何のために経営を行っているかを経営の中枢に据え、それを明確にし、経営者自身や自社が目的をしっかりと持ち続けることの大切さを説いています。
それをベースに「方向づけ」を行っているのです。
ピーター・ドラッカー先生も「企業の定義は『目的』からスタートしなければならない」と言っておられます。
「お金を追うな、仕事を追え」
しかし、それが実践の経営ではなかなか難しいのです。
「パーパス経営」なる言葉が流行ったり、「ミッション、ビジョン、理念」の大切さは、多くの経営者が口を酸っぱくして言っていますが、なかなかそれを実践するのは難しく、社員にも浸透しないのです。
それは経営にはお金が絡むからだと私は考えています。
私の人生の師匠である長野県長野市篠ノ井の曹洞宗円福寺の故・藤本幸邦老師は、「お金はないと不自由だが、お金は魔物」だとおっしゃっていました。
お金が絡むとおかしくなる人も少なくないのです。
私は30年以上にわたり多くの企業を見てきました。
どうしても「金儲け」が目的化しがちな経営者も少なくありません。
しかし、それでは長続きしません。
経営者の金儲けなど、お客さまも従業員も関心がないからです。
藤本老師は、「お金を追うな、仕事を追え」と何度も私におっしゃいました。
目的を明確に持ったうえで、仕事、それも後に詳しく説明する「良い仕事」を行うことが大切です。
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。