若手社員の頃は
他でも通用するスキルを学べばいい
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為末さんも「陸上競技そのものが目的ではなかった」と話す。心の奥底には「誰もやったことがないことをやりたい」という思いがあったそうだ。
スプリント種目の世界大会で日本人初のメダル獲得者であり、男子400mハードルの日本記録保持者でもある為末さん。つまり、「誰もやったことがない」ことに取り組むことが本来の希望であり、「陸上競技」はそれを叶える手段のひとつだったということだ。
自分の本来の希望、目的がわかると、今の場でがんばる意欲がわいてくるかもしれない。
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スキルはそんなに汎用(はんよう)性がないわけではありません。
車の保険の営業をしていたとして、それしかできない人間になるということはないでしょう。営業の力はもちろん、他者とのコミュニケーションスキルも上昇するはずです。
「専門性」と「汎用(はんよう)性」は相反する言葉ですが、特に社会人になりたて、若手社員の頃は“他でも通用する何か”をそれぞれの場で学んでいるのではないでしょうか。だから仮に今、希望通りの職場、理想の人生プランでなくても、今後にまったく応用できないわけではないと思うのです。
本当は人と向き合う接客業が良かったのに、毎日事務作業をしている――などという場合でも、「職場には人がいる」くらいの発想の転換をしてもいいですね。
若い頃に目指していた地点は
年齢を重ねるとどんどん動いていく
もちろん、「20年、30年とそこにいなさい」という話ではありません。
ただ最初から「これがいい」と職種を絞り込んでいく、「魚釣り」に例えると、最初から「あの魚を釣る」なんていうのは難しい。そもそも自分が「どの魚」を本当に欲しいと思っているのかだってわからないでしょう。おおまかに魚群を捉え、釣竿(つりざお)を投げてみるしかないのです。
20代くらいの若手社員の方は「こんな世界がある」ということの情報が少ないわけですよね。“今のあなた”の知識の中からしか選んでいないので、それは変わる可能性が高い。若い頃に目指していた地点が、年齢を重ねるとどんどん動いていくわけです。むしろ一貫して同じ地点を希望する人を、私は知らないかもしれません。
だから少なくとも1、2年は騙されたと思って、「今いる場所」でやってみてはどうでしょう? と思います。
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とはいえ“流されるまま”のスタイルを推奨しているのではない。むしろ為末さんが物事に取り組む際は、非常に“戦略的”だ。
大学を選ぶ時、自分で練習内容や目標を設定できるように、コーチをつけずに競技に取り組める法政大学に進学した。
そして先に述べた「誰もやったことがないことをやりたい」という目的を実現するため、為末さんは「陸上競技で世界一になること」を目指した。だから陸上の花形種目である100m走で先がないとわかった時、その手段を諦め、400mハードルで戦いを挑んだのだ。実際にレスリングなどの階級のあるスポーツにおいては、勝ちやすさの追求は戦略のひとつとして認められているという。
ビジネスに置き換えると、自分の特性を見極め、踏ん張ったら「勝てる」領域で目標を設定していくことといえるのかもしれない。
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