なぜハーバードは虎屋に学ぶのか日本研修について詳述した佐藤智恵氏の最新刊『なぜハーバードは虎屋に学ぶのか ハーバード白熱教室の中の日本』(中央公論新社)

 2つめが、人間が仕事をする上で最も大切なのは「やりがい」であること。

「上司が見ているから仕方なく」「お金を得るために仕方なく」ではなく、内発的な動機に突き動かされたときに、人は初めて良い仕事をすることができるのです。ですから、私は現場の人たちの能力を尊重し、メンバーのやる気を刺激するようなリーダーをめざしたいと思っています。

 このような気持ちになったのは、テッセイの事例を学んだとき、女性の清掃員と幼稚園の先生をしている母親の姿が重なったからです。

 実は「幼稚園教諭」はやりがいを持つのがなかなか難しい職業です。日々の現場仕事が社会から特段注目されることもありませんし、高校や大学の先生とはちがって、卒業生やその親が訪れてくることもめったにありません。

 では、母親のような仕事をしている人たちにやる気を出してもらうにはどうしたらいいのか。

 テッセイの再生物語から学んだのは、「どんな地味で、小さな仕事でも、人々の役に立っているのだ」とリーダーが伝え続けることが大事だということです。「社会から注目されない何者でもない存在」ではなく、「社会に貢献している大切な存在」であることを示し続ける経営者を目指したいと思っています。

浅草寺東京・浅草寺にて(左がオースティン・レガラドさん)=2025年5月23日、東京都台東区 写真提供:「ジャパン・トレック」幹事団

 3つめが、家族やコミュニティーを大切にすること。日本に行って印象的だったのが、日本の人たちが高齢者を敬い、地域のコミュニティーを大切にしていたことです。

 実はラテンアメリカ諸国には、もともと家族やコミュニティーを重視する文化があります。キューバ移民を祖先に持つ私たち若者が未来を築いていく上で、両親や祖父母の世代の功績や苦労に対して敬意を払うのは不可欠だと思っています。

 今回のジャパン・トレックはビジネススクールの研修旅行でしたが、次回は、未来の妻や子どもたちと一緒に日本を旅行したいですね。東京ディズニーリゾート、宮島、京都をはじめ、日本各地を回りながら、日本の素晴らしさを伝えたいと思います。

*本記事に登場する学生のインタビューは、個人の意見を反映したものであり、ハーバード大学及びハーバード大学経営大学院の見解を示すものではありません。

佐藤智恵(さとう・ちえ)

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。2017年より東証プライム上場企業数社の社外取締役を務める。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)、最新刊は『なぜハーバードは虎屋に学ぶのか ハーバード白熱教室の中の日本』(中央公論新社)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/