愛知県岡崎市。この人口38万人の地方都市に、とんでもない成果をあげている中小企業相談所があります。立ち上げから12年で累計4400社、2万9000件以上の相談を受け、実際に新規事業・新商品となった案件は1000件超。相談をしたいという企業は1か月以上先まで予約で埋まっている状況です。
この異例の成果を出しつづける「オカビズ」の初代センター長として長年活躍してきたのが、秋元祥治氏です。秋元氏はオカビズに加え、ベンチャーや大企業・大学(武蔵野大学アントレプレナーシップ学部)でも活動し、さまざまなビジネスに伴走。これらの経験を通じて、「自分だからできる仕事」は才能や特別な環境がなくても誰にでもつくれると確信するに至りました。
そのための知見とスキルのすべてをまとめた書籍が、『自分だからできる仕事のつくり方』です。LINE ヤフー株式会社代表取締役会長・川邊健太郎氏、『エフェクチュエーション』の著者・吉田満梨氏の両氏からも絶賛された同書から、1つの事例を公開します。

『自分だからできる仕事のつくり方』1Photo: Adobe Stock

コロナ禍で廃業寸前の画材屋が、なぜ大ヒット新商品を出せたのか?

「ネットショップを開設したいんですが……」

 ある時期、オカビズにはこの相談が殺到しました。そう、コロナ禍です。リアルでは大半のお店の売上が激減。販路はもうネットにしかない―。

 岡崎で画材の販売、絵画教室、そして貸しギャラリーを営んでいる彩雲堂の山田将裕さんも、そんな相談者のひとりでした。聞けば、売上減どころか、教室、ギャラリーともに売上がほぼゼロになるという緊急事態。確かに、活路はネットにしかなさそうです。

 しかし、ご存じの通りECは非常に難しい。これまでは「岡崎市の画材店」でよかったところが、ネットでは日本中の画材店が横並び。しかも、全国区の知名度の店舗や、Amazonや楽天などのモール、さらにはメーカーの直販とも競う必要が生まれてきます。コロナ禍になってからネットショップを始める彩雲堂に、勝ち目などないようにも見えます。

 それでもオカビズでは、諦めません。まずは「強み」を探ります。いろいろな角度からお話を伺い、ひたすら掘り下げていきます。

 その際に非常に強力なのが、「人」です。相談に来た人の来歴を深掘りすることで、ひらめきのタネが見つかることが多いのです。たとえそれが今のビジネスとは一見関係のない過去の経歴だとしても。

 この日は、山田さんの人生をすべて振り返る勢いで掘り下げていきました。

「社会人になったときですか? ホルベインに入社し、大阪で営業をしていました」

 山田さんは、画材メーカーで有名なホルベインで働いてから、家業の彩雲堂を継いだといいます。そして、その後にぽろっともらしたことが新たな展開の決め手となりました。

「今も、ホルベインのいろんな商品を扱わせてもらっています。オリジナルのパッケージで売ることも許可してもらっていて」

 その瞬間、「これだ!」と頭のなかに、ふたつのひらめきが走りました。

 ひとつは、世の中には「特定の色が好きな人」が存在するという情報。身につけるものや部屋の調度品をピンクや青など、特定の色に統一しているのを、テレビ等で見たことがある人もいるかと思います。アンミカさんの「白って200色あんねん」というフレーズがSNSで話題になったことを記憶している人もいるかもしれません。

 そしてもうひとつが、ここ数年で一気に定着した言葉、「推し」です。

 好きなアイドル、俳優、スポーツ選手……熱心に応援することを指すこの言葉はすでに市民権を得ており、「推し活」といった消費形態をも生み出しています。

 この推しと切っても切れないものが、「色」。自分が応援しているアイドルが担当している色は、推しカラーとも呼ばれています。

 こうしたトレンドから着想を得て生まれたのが、感性を磨く「だけえのぐ」シリーズです。

「特定の色が好きな人向けの絵の具」として、赤系統だけを12色、青系統だけを12色……と、ホルベイン社の絵の具をそれぞれ詰め合わせたセットを、オリジナルパッケージとして開発。見た目もグラデーションになっていて美しく、ネットで見ても十分差別化可能な商品となりました。

 これがネットの世界で大きくバズって注文が殺到。発売3日で数百セットの受注が集まり、一時は販売受付中止にまでなってしまいました。「だけえのぐ」シリーズは、コロナ禍を乗り越える力となっただけでなく、ひらめきと工夫で事業を作っていくことができる、と再確認する機会となりました。

 自分にとってはなんてことのない過去のキャリアや実績でも、十分にオンリーワンの仕事を創出する際のタネになり得ます。ぜひ、具体的に何をやってきたのかを、振り返ってみてください。