
歴史ある町工場を見ると感じる懐かしさ――忙しかった頃の日本をどんなふうに通り過ぎたんだろう。町工場を見学してお茶でも飲みながら、一番盛り上がっていた時代の話を聞きたい。今回は昭和世代の心を震わせた「キン消し(キン肉マン消しゴム)」を製造していた町工場を取材した。(前編)(フリーライター 大北栄人)
昼夜問わず「キン消し」を作っていた機械の今
東京都の東の方、江戸川区小松川には町工場の長屋と呼ばれるような「テクノタウン小松川」という建物がある。ここに入っている株式会社おれんじは「成形屋」と呼ばれる射出成形(プラスチックを金型に射出し、さまざまな形状の製品を製造すること)の会社で、かつてはあの「キン消し」を製造していた。
「この辺は小さい工場がいっぱいあったんですよ。東京都の再開発事業でこんな1つのビルにまとめられたんですよね。もともとは浅草にあったんですけどこっちに引っ越してきました」(鍬形拓男さん)
話をうかがったのはかつて代表をしていた鍬形拓男さん(84)と御子息であり現代表の孝一さん。かつてキン消しを作っていた会社は、今では打って変わってカプセル玩具のカプセルを作っている。

――人形もカプセルも同じ機械で作るんですか。へえ~!
鍬形拓男氏(以下、先代) 塩ビ(塩化ビニール)の材料を溶かして金型の中に流し込めばキン消しができる。カプセルはスチロールとPPという材料なんですよね。キン肉マンの声優の神谷明さんが取材に来た時にね。(キン消しの)材料の塩ビの粒を見て「うわ、僕のお母さんこんなんなっちゃった~!」って言ってましたね(笑)。
1980年代に日本で大ブームとなったキン肉マン消しゴムはガチャガチャ、「ガシャポン」と呼ばれるようなカプセルトイの一種で、カプセルの中にはマンガ『キン肉マン』のキャラクターの塩ビの人形が2つ入っている。
第二次ベビーブームの子どもたちが小学生だった1980年代。日本に最も子どもが多かった時代に大ブームだったおもちゃを作っていた町工場で話を聞いた。