嫌な記憶から解放される最も簡単な方法とは?
誰にでも、悩みや不安は尽きないもの。とくに寝る前、ふと嫌な出来事を思い出して眠れなくなることはありませんか。そんなときに心の支えになるのが、『精神科医Tomyが教える 心の執着の手放し方』(ダイヤモンド社)など、累計33万部を突破した人気シリーズの原点、『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)です。ゲイであることのカミングアウト、パートナーとの死別、うつ病の発症――深い苦しみを経てたどり着いた、自分らしさに裏打ちされた説得力ある言葉の数々。心が沈んだとき、そっと寄り添い、優しい言葉で気持ちを軽くしてくれる“言葉の精神安定剤”。読めばスッと気分が晴れ、今日一日を少しラクに過ごせるはずです。

嫌な記憶やトラウマをどう乗り越えるか
今日は、「嫌な記憶やトラウマをどうやって乗り越えたらいいのか」というお話をしたいと思います。
「トラウマ」の本来の意味と、一般的な使われ方
まず、「トラウマ」という言葉の定義について少し触れておきたいと思います。本来、トラウマとは、生死をさまようような体験や、自身の生命に危機が及ぶような出来事が原因で、その記憶が突然蘇る(フラッシュバックする)ような状態を指します。
この概念は、ベトナム戦争から帰還した兵士たちの精神状態に異変が見られたことから発見されたPTSD(心的外傷後ストレス障害)が起源です。そのため、もともとは命の危険に晒されるような深刻な体験を指す言葉でした。
しかし、一般的には「大勢の前で怒られたことがトラウマになった」というように、より広い意味で「辛い記憶」として使われることが多く、本来の定義とは少し異なります。
今回は、後者をベースに「どうしても蘇ってしまう嫌な記憶を何とかしたい」という点について解説していきます。
嫌な記憶が蘇る原因は「頭がお暇な状態」
過去の嫌な記憶がふと湧き上がってきてしまうのは、私がよく言うところの「頭がお暇な状態」に近いと考えられます。嫌な記憶にとらわれる人は、なんとなく自然に「頭がお暇な状態」にしてしまう習慣が身についてしまっているともいえます。
「頭がお暇な状態」とは、目の前の物事に集中できていない状態のことです。人間は、勉強や食事、家事など、目の前のことに意識を向けている間は、余計なことやネガティブなことを考えにくくなります。しかし、何をしていても上の空で、別の考え事をしていると、次第に答えの出ないネガティブな思考に陥りやすくなります。これが「頭がお暇な状態」です。
嫌な記憶も、この「頭がお暇な状態」の時に浮かんでくる思考の一つと言えるでしょう。
対策1:目の前のことに集中し、「環境」と「行動」を切り替える
では、どうすれば「頭がお暇な状態」から抜け出せるのでしょうか?
まずは、「今やっていることに集中する」ことが大切です。勉強なら勉強に、食事なら味わうことに、家事なら一つひとつの作業を丁寧にこなすことに意識を向けます。
もし、集中しようとしてもできない場合は、その作業に飽きているか、心身が疲れているサインです。その時は、思い切って休憩をとるか、「環境と行動を切り替える」ことを試してみてください。
環境を切り替える
隣の部屋へ移動する、リビングに降りる、近所を散歩するなど、場所を変えるだけで効果があります。
新しい環境からの視覚や聴覚の情報に意識が向くため、自動的に「今」に集中しやすくなります。
行動を切り替える
家事に集中できず嫌なことを考えそうになったら、「家事をやめて買い物に行こう」と行動を変えてみます。そうすると、「何を買おうか」「今日の献立は何にしようか」と考えることに意識が切り替わり、「今」に集中できるようになります。
このように、「頭がお暇な状態」になりそうだと感じたら、今いる場所や、やっていることを変えることで、ネガティブな思考から解放されやすくなります。
対策2:「今、この瞬間」の幸福度を高める
もう一つの観点として、「今の状況が幸せかどうか」という点が挙げられます。
人は、友人と楽しく遊んでいる時など、幸せを感じている瞬間に、過去の嫌な記憶を思い出すことはほとんどありません。逆に、楽しい時間が終わった帰り道など、ふとした瞬間に蘇ってくることが多いのではないでしょうか。
つまり、嫌な記憶が蘇りやすいかどうかは、「今の状態」との比較で決まる傾向があります。今の自分が満たされていなかったり、幸せを感じていなかったりすると、過去の嫌な記憶が呼び起こされやすくなるのです。
例えば、好きな人から食事の誘いがLINEで届けば、心が弾んで嬉しい気持ちになります。その瞬間、少なくとも過去の嫌な記憶は頭に浮かんでこないはずです。
このように、慢性的に「あまりハッピーではない」という状態が続いていると、嫌な記憶が蘇りやすくなります。
「今を大切にする」ことの重要性
もし、ご自身の今の状態が「あまり幸せではないな」と感じるなら、少しでも改善していくことが大切です。それは、何か大きなことを成し遂げる必要はありません。
● 疲れたら少し昼寝をする
● 久しぶりに友人に電話してみる
このような、ささやかなことで良いのです。「最近いいことがないな」と感じながら何もせずにいると、相対的に嫌な気分が湧き起こりやすくなり、その中に嫌な記憶も含まれてきます。
もちろん、本来の意味でのトラウマの治療は専門的なアプローチが必要で、ここで語り尽くせるものではありません。しかし、一般的に「嫌な記憶が蘇りやすくて乗り越えたい」と感じているのであれば、「今を大切にすること」が非常に重要なキーワードになります。
ご紹介した対策を意識して、少しでも「今、この瞬間」を輝かせることを試してみてはいかがでしょうか。
※本稿は『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)の著者による特別原稿です。