
近年、人的資本経営が注目され、従業員のエンゲージメントスコアを公表する企業が増えている。しかし、実際のスコアが、どのように業績に連動しているのかを各企業はあまり把握していないのではないか。そうしたなか、注目されているのが、働く人たちの「プロアクティブ行動」だ。書籍『プロアクティブ人材 アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略』を著し、「プロアクティブ行動」の実証研究をベースに、さまざまな企業のコンサルティングを行(おこな)っている下野雄介さん(株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイン グループ運営部長/上席主任研究員)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
「プロアクティブ行動」とは、どのようなものか?
下野雄介さん(日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 運営部長/上席主任研究員)は、長年、企業経営・人材戦略のコンサルティングに携わり、そのなかで、経営層・人事担当者の「自律的な人材が足りない」という声を聞いてきた。一方で、職場の管理職やメンバーに、「自律的な人材が足りない」といった声を伝えると、「私は自律的に動いているつもりです」という答えが返ってきて、話が噛み合わないという。
下野 なぜ、噛み合わないのか? それは、「自律」の中身が曖昧だからではないか?という問題意識が、私にずっとありました。そうしたなか、2019年に心理学の国際学会で、「プロアクティブ・ビヘイビアー(プロアクティブ行動)」という学術的な概念と出合い、それを起点に解像度を上げていけば、経営層・人事担当者と職場で働く者の意識の差が減るのではないかと考え、「プロアクティブ行動」の研究を始めたのです。
「プロアクティブ行動」は、日本では、まだそれほど広まっていない概念だ。いったい、どのようなものなのか?
下野 学術的な面では、組織行動論の分野で、アダム・M・グラントとスーザン・J・アシュフォードという研究者が2008年に発表した「プロアクティブ・ビヘイビアー(以下、プロアクティブ行動)」の定義が有名です。それによれば、「プロアクティブ行動」とは「個人がとる、自分や環境に影響を及ぼす先見的な行動であり、未来志向で変革志向の行動」とされています。噛み砕くと、「働く人が、企業および自分の将来をより良くするために、自ら能動的に新しいことに挑戦する行動」といえるでしょう。企業と自分自身――その双方のメリットを働く人が意識し、かつ、能動的に行動するという点がポイントです。
いまの時代、「自分の生活や将来を企業のために捧げる」という考え方は受け入れられにくくなっています。一方、「社員が自分のためだけに働く」という行動は、企業側からすれば、持続性がありません。
企業にとって有益な行動で、それが自分のキャリアにとっても有益なものとなる――両者の重なり合うところが「プロアクティブ行動」であり、そうした行動をとれる人を我々は「プロアクティブ人材」と定義しました。

下野雄介 Yusuke SHIMONO
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイン グループ運営部長/上席主任研究員
大阪大学経済学部卒業。三井住友銀行を経て、現在日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門に所属。主として経営戦略に基づいた組織改革、マネジメントシステム改革、BPR(Business Process Reengineering)、人的資本に係る制度構築運用・教育など、経営基盤構築に係る幅広いテーマを経験。著書(共著)に、『不連続時代の行動原理 RCM経営入門』(2010年3月/同友館刊)、『プロアクティブ人材 アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略』(2025年3月/金融財政事情研究会刊)がある。







